奈良先端科学技術大学院大学(NAIST),富士通研究所,富士通,東京大学,科学技術振興機構(JST)らは,半導体としての極めて優秀な電気特性を持つ,幅の広い「グラフェンナノリボン(GNR)」を作製し,半導体の材料として最適な性質を示すことを確認した(ニュースリリース)。
グラフェンは,導体である金属のように電気を良く通すが,細く長いリボン形状にすることにより,半導体の性質を持たせることができるうえ,リボンの幅の太さによりバンドギャップが変化し,通常,リボン幅が細くなるにしたがって,周期性を繰り返しながらバンドギャップは大きくなる。
バンドギャップを形成するために必要なGNRの幅は数nm程度と細いため,金属基板に前駆体分子を堆積するボトムアップ合成法が用いられる。これまで,エッジ構造やリボン幅が精密に制御されたGNRが何種類か合成されてきたが,LSIに使用するにはバンドギャップが2eVから4eVと比較的大きく,シリコンと同程度である1eV程度,あるいはそれ以下のバンドギャップを持つGNRを合成するには,GNRの幅を広くする必要がある。
量子化学計算により炭素原子17個分の幅のGNRであればバンドギャップを1eV以下に縮小することができるが,そのためにはより幅が広い前駆体分子が必要になる。しかし前駆体分子のサイズが大きくなると,昇華に必要な温度が高くなり,気体になる前に分解してしまう。そこで研究グループは,前駆体分子の設計から工夫し,炭素原子17個分の幅とアームチェア構造のエッジを持つ,17-AGNRの合成に世界で初めて成功した。
合成方法は従来のボトムアップ方式と同様だが,前駆体分子は,サイズが大きくならないようにできるだけシンプルな構造で,高温での昇華に耐えうる耐熱性のあるユニットで構成した。また,この前駆体分子を,実用化に必須となる短工程で合成するルートも確立した。
合成に成功した17-AGNRではエッジ構造を反映した凹凸が確認できた。また,リボン幅方向に8個の六角形が連なった構造も明確に確認できた。さらに,理論計算と一致する,約0.6eVのバンドギャップを持つことも確認した。
研究グループは,今後,17-AGNRを使ったトランジスタなどのデバイスを試作し,理論的に予想されているGNRの電荷輸送特性を検証する。さらに,今回開発した前駆体分子の設計・GNR化技術・構造解析手法を発展させていくことで,様々な構造や特性を持つGNRの開発を推進するとしている。