名古屋大学,奈良先端科学技術大学院大学の研究グループは,硫黄元素の挿入という独自の分子設計に基づきn型有機半導体の可溶性前駆体の創出に成功した(ニュースリリース)。
有機半導体は,有機発光ダイオードや有機薄膜太陽電池といった次世代電子デバイスの主要な構成要素。現在,市場に流通している電子デバイス類は半導体としてシリコンなどの無機材料を含んでいる。
これに対し,有機分子を半導体として利用すればデバイスの廉価化や薄型化に繋がると期待される。特に可溶性前駆体と呼ばれる,有機溶媒に対して優れた溶解性を示す前駆体分子を使えば,溶液プロセスによって半導体膜を作製することが可能となり,高価な装置が必要な真空蒸着を使う必要がなくなる。仮にこれをインクジェットプリントと組み合わせれば,デバイスの大面積化にも繋がる。
過去に報告された可溶性前駆体の多くはp型有機半導体という正孔を流しやすい分子を与える。その一方で,電子を流しやすいn型有機半導体の可溶性前駆体は限られていた。有機太陽電池を構成するにはp型とn型の両方の半導体が必要であるため,n型有機半導体の可溶性前駆体が待望されていた。加えて,現状では 分子設計指針に限りがあるため,多様性の拡張には新指針の確立が求められる。
今回,研究グループは,n型有機半導体分子の1つであるペリレンビスイミドに着目し,「硫黄元素の挿入」という独自の設計戦略を適用させることで,硫黄挿入型ペリレ ンビスイミドを新たに設計・合成した。
得られた分子は熱や光といった外部刺激に対して鋭敏に応答し,ペリレンビスイミドに変化することを明らかにした。そこで,今回合成した分子の特異な反応性を活用することで,溶液プロセスによってn型半導体層を有する有機電界効果トランジスタを作製することに成功した。
今回の成果は,代表的なn型有機半導体であるペリレンビスイミドの前駆体を世界に先駆けて報告する点で意義深いものといえる。加えて,この研究は「硫黄元素の脱離」という素反応が新規可溶性前駆体の設計に効果的であることも示唆している。この成果をきっかけに,可溶性前駆体の実用化に向けた研究が加速することが期待されるとしている。