名古屋工業大学は,無色・透明であり、可視光領域において90%以上の透過率を達成した機能性エポキシ硬化樹脂の調製に成功した(ニュースリリース)。
高分子材料は,ガラス転移点や融点などの軟化温度を境に,ガラス状態⇔溶融状態へと熱可逆的に変化する。未架橋のポリマーは溶融状態の温度では流動してしまうが,ポリマーを架橋した場合,その流動が抑制され,伸縮可能なゴム状態となる。
架橋樹脂を変形させると,分子レベルにおいては,エネルギー的に不安定な分子ネットワークとなるが,加熱によりエネルギーを与えゴム状態とすると,未変形状態の安定ネットーク構造へと再び回復する。それに伴って,外観としては,未変形状態の形を取り戻す。このような形状記憶樹脂は,初期の形状が記憶可能であるものの,「その記憶形状を除去し,さらに記憶更新させること」は不可能であった(架橋結合が外れないため)。
開発した架橋樹脂では,加熱によって結合交換が可能な動的共有結合を用いてポリマーを連結させることで分子レベルにおいてネットワークを形成させ,記憶更新可能な形状記憶樹脂を調製した。
ネットワークに導入した動的共有結合は,結合交換触媒含有下で熱を加えると,結合交換が活性化する。結合交換反応としては,結合の解離と再形成が同時に起こるエステル交換反応を用いた。そのため,結合交換時にもネットワークの連結性が保持され,高温でも急激に流動することはない(ネットワークの連結性がない従来の樹脂では流動してしまう)。
架橋結合交換が起きる温度以上では,外観としての形はほとんど変わらないものの,分子レベルでは,ネットワークのトポロジー(かたち)が刻々と変化する中で初期ネットワーク構造の記憶が除去されていく。結合交換温度より高い温度で変形を加えた後に除冷すると,変形した形状が新たな安定形状として記憶される(記憶更新)。
これまで記憶更新可能な形状記憶樹脂調製の実証例はほとんどない。そのため,この技術は消費者ニーズで所望の形状に変形させ,その新形状を記憶させられる。また,モノマー化合物の混合と加熱によりワンステップで調製することが可能。また,ほぼ無色透明であるため,意匠性の点でも優位性があるという。
研究グループは,フィルム,シート,ファイバー,発泡体などへの展開を見据え,医療製品,フレキシブルデバイス,ウェアラブルデバイス,ロボットなど社会ニーズの高い分野へも活用していきたいとしている。