北海道大学の研究グループは,深紫外線(DUV)を透過する透明な薄膜トランジスタの作製に成功した(ニュースリリース)。
ウイルスや細菌などの目に見えない小さな生体分子を高感度で検出するツールの一つとして,バイオセンサーが挙げられる。半導体トランジスタの活性層にウイルスや細菌のDNAが付着すると,トランジスタを流れる電流が変化する。バイオセンサーでは,このときの電流の変化を利用してウイルスや細菌を検出する。現在のバイオセンサーでは,半導体シリコンを活性層とするトランジスタが利用されている。
バイオセンサーからウイルスや細菌を除去するためには,殺菌灯などの深紫外線を照射する必要があるが,シリコンのバンドギャップが小さい(1.1eV)ため,トランジスタ動作中に殺菌灯を照射すると,シリコンの電子が光励起され,動作が不安定になるという問題がある。研究グループではこの問題を解決するため,活性層の材料を深紫外線を透過する半導体に変えればよいと考えた。
深紫外線を透過する半導体候補として酸化ガリウムや電子ドープアルミン酸カルシウムが知られている。しかし,これらの半導体は導電率が低く,薄膜トランジスタの性能も十分ではないという問題があった。
そこで,3000S/cmの高い導電率を示し,バンドギャップが4.6eVと大きなスズ酸ストロンチウム(SrSnO3)を活性層とした薄膜トランジスタを作製し,そのトランジスタ特性と光透過特性を調べた。
パルスレーザー堆積法などを用いて薄膜トランジスタを作製した。半導体デバイスアナライザを用いてトランジスタ特性を計測したほか,紫外・可視分光光度計を用いて光透過・反射スペクトルを計測した。計測はすべて室温・空気中で行なった。
計測の結果,ゲート電圧の増加に伴ってドレイン電流が増加する,nチャネルのトランジスタ動作を示すことが分かった(電界効果移動度 ~14 cm2/Vs,オンオフ比 ~102,しきい値電圧-18V)。また,ドレイン電圧の増加に伴うドレイン電流 の増加と電流飽和が見られたことから,一般的な電界効果トランジスタが実現できたことがわった。
また可視光・近赤外線領域では80%以上の透過率,15%程度の反射率を示すことがわかった。さらに,紫外線領域の拡大図から,DNAの光吸収波長である260nmにおける透過率が50%を超えることがわかった。以上のように,深紫外線を透過する透明な薄膜トランジスタの作製に成功した。
この研究の深紫外線透明トランジスタは,殺菌灯の深紫外線を照射した状態でも動作する,全く新しいバイオセンサーの原型になるとしている。