早稲田大学,独マックスボルン研究所,カナダ国立研究機構の研究グループは,アト秒レーザーと赤外レーザーによる新たな量子制御法の解明に成功した(ニュースリリース)。
研究グループは,極端紫外レーザーと赤外レーザーパルスの組み合わせにより,量子状態(磁気量子数)の選択が可能になることを見出しているが,なぜそれが可能なのかという物理的なメカニズムはよくわかっていなかった。
今回,このような現象が起こる物理的メカニズムの解明を目指し,新たな測定と量子力学的計算を行なった。その結果,赤外レーザーパルスと極端紫外光の波長を制御することで,磁気量子数m=0の状態からm=1の状態へ移り変わることを測定できた。
アト秒レーザーパルスと赤外レーザーパルスを同時にネオン原子に照射し,放出された電子の運動量を測定した。6つのローブは軌道角運動量量子数ℓ=3(f-軌道)のm=0の特長を表す。赤外レーザーパルスの強度を下げると,6つのローブは消えて,磁気量子数m=1を表す分布が選択的に測定できた。
さらに,モデルによる解析を行なうことで,赤外レーザーパルスのエネルギー(波長)が,たまたま他の準位間のエネルギーに等しくなるときに,m=0とm=1のエネルギー準位が大きく変化することが分かった。
どのようなアト秒レーザーパルスの波長と赤外レーザーパルスとの組み合わせで,どのような量子状態が生成するのかを調べるために,アト秒レーザーパルスの波長を0.4eV程度連続的にスキャンし,かつ光電子の運動量分布と同時に測定できるように測定系を構築した。
これにより,測定される波動関数がどのような条件で移り変わるのかがわかり,かつ理論計算と比較できるようになった。また新たに時間依存のシュレーディンガー方程式による計算がマックスボルン研究所で行なわれた。
この研究は,光による電子の励起過程の制御に新たな方法を提示したもので,波長可変のアト秒レーザーパルスと高強度赤外レーザーパルスによる非共鳴的なエネルギーシフトと共鳴励起とを組み合わせることで,特定の量子状態を選択的に励起できることを示した。
光による励起の確率や選択性は物質固有の性質(電子波動関数)によって決められるが,この研究で実証された方法を用いることで,これまでは困難だと思われていた量子状態(励起状態)を作り出すことや,量子準位を分けて測定することが可能になったという。また,この研究により新たな光化学反応の過程を開き,化学反応制御を行なうことが期待されるとしている。