理化学研究所(理研),インド工科大学,CSIR-インド国立学際科学技術研究所の研究グループは,原料を混ぜるだけでできる「超分子ポリマー」を開発し,このポリマーが「キラル化合物」における左手分子と右手分子の分離に利用できることを実証した(ニュースリリース)。
化学結合を用いず,物理的相互作用のみで単量体を連結した特殊な重合体(ポリマー)を「超分子ポリマー」という。
超分子ポリマーは,合成時のエネルギー消費や有害物生成がゼロで,いったん単量体に戻して再度ポリマーにするといった再利用が極めて容易,また,例えば暑いときにはポリマーが短くなって粘性が下がり,寒くなるとポリマーが長くなって粘性が上がるなど,環境変化に対しスマートに応答する特長を持つため,近年,盛んに研究されている。
また,ほとんどの超分子ポリマーは,特別な操作をしなくても精密ならせん構造を取ることから,物質のキラリティに関連するさまざまな機能を発現すると考えられている。
化学結合により単量体が連結された古典的ポリマーの中にも,らせん構造を取るものが存在し,これらのキラリティ関連機能(左手分子と右手分子を分離する機能,非線形光学効果など)は,既に私たちの日常生活を支える技術として実用化されている。そのため,らせん構造に由来する機能と超分子ポリマーゆえの特長とが相乗することで,古典的ポリマーには見られない,有用性が期待できる。
しかし,これまでの研究では,超分子ポリマーのらせんキラリティはもっぱら,超分子ポリマー自身の構造を調べる際の道具として利用されており,その機能探求は未開拓の状態にあった。
今回,研究グループは,「キラルでないカルボン酸分子」と「キラルなアミン分子」を混ぜるだけでできる,らせん状の超分子ポリマーを開発した。この超分子ポリマーは,同じ方向にねじれる分子のみを内部に取り込むため,キラル化合物の左手分子と右手分子を効率良く分離できる。
左手分子と右手分子が混合または分離する現象は,キラル化合物の高効率生産に直結するとともに,地球上におけるキラリティの偏りの起源を解き明かす鍵にもなる。
シンプルなメカニズムにて,らせんの巻き方向が同じなら混合し,巻き方向が逆なら分離するという特長を示す今回の超分子ポリマーは,関連研究における有用なモデル系になるとしている。