大阪大学,カネカの研究グループは,世界で初めて単結晶グラファイトの層間結合力(グラフェン層を結合するバネのバネ定数)を正確に計測することに成功し,これが従来通説とされてきた値より強い結合であることを発見し,また,この現象を理論的に説明することにも成功した(ニュースリリース)。
これまでに高品位とされてきたグラファイト結晶は多くの欠陥を含んでおり,そのために見かけの層間結合力が下がっていた。つまり,純粋なグラファイトの真の姿は未知だった。
研究グループは,高配向性ポリイミド薄膜を高温で焼成することにより,欠陥のほとんど無い極めて高品質なグラファイト結晶(単結晶)を作製することに成功した。ただし,この結晶は,直径が10μm程度,厚さがわずか1μm程度と非常に小さいため,厚さ方向の結合力を計測することは極めて困難だった。
そこで研究グループは,直径1μm程度のサイズに集光したレーザー光をほんの一瞬(10兆分の1秒程度)だけグラファイト表面に照射するピコ秒レーザー超音波スペクトロスコピー法により,超高周波数の「音」を発生させ,その音の伝播速度を正確に計測することにより,この結晶の厚さ方向の結合力を測ることに成功した。
このようにして発生する音の波長は100nm程度であり,音であるにもかかわらず可視光の波長よりも短いことから,微小試料に対しても正確に結合力を評価することができる。この方法は,たたいて出る音によって良いスイカを見分ける方法と類似している。
グラファイトは,グラフェンが積層した構造をもち,積層面間の結合力はとても弱いと考えられてきたが,この計測の結果,正しい弾性定数は40GPaを超え,50GPaに迫ることが明らかになった。
この研究成果により,グラファイトのもつ真の特性は結晶性を高めたときに初めて現れることが分かった。従来提唱されてきた性能を遙かに凌ぐグラファイトが作ることが可能になった。
この高性能な多層グラフェンを用いて,超音波計測の技術を応用すると,測定される物質を壊さないようにしながら極めて高い感度で,たんぱく質などの生体物質を同定するセンサーを作り出すことが期待できるという。
研究グループでは,この高性能な多層グラフェンの特性を生かして,生体分子に与える熱的なダメージを抑えた新しい高感度生体センサーの開発を進めていくとしている。