JAXA宇宙科学研究所,海洋研究開発機構(JAMSTEC),東京工業大学,高輝度光科学研究センターの研究グループは,40億年前の火星の岩石(火星隕石)が,生命活動にも関わる有機窒素化合物を保存していることを発見した(ニュースリリース)。
今回,研究グループは,火星隕石への地球物質の混入を低減するべく,新たに「窒素(N)の局所非破壊分析」を実現した。放射光(SPring-8)を利用して100分の1mmほどにまで細く絞ったX線を試料に照射し,試料から出るX線の吸収エネルギーを解析することで,含まれる窒素の酸化還元状態や化合物などを推定できる。この分析法により,直径10分の1ミリメートル程度と小さな火星隕石を「破壊せずに」調べることが可能となった。
研究グループは,火星隕石中の炭酸塩鉱物(地球上では熱水からの析出や鉱石の風化などにより生成されることが多い鉱物)が有機窒素化合物(炭素と窒素を含む化合物で肥料に含まれていることが多い)を保持していることを発見した。研究グループは,この有機物が40億年前の火星由来であると推測しているという。
太古の火星には,液体の水(海や湖,地下水など)が存在したとされている(ノアキス期:41-37億年前)。この時代の火星に存在した有機物の一部は,水に溶け込み,周囲の岩石との化学反応を介して鉱物に取り込まれたことで,現在まで壊れずに保存されたと考えられている。今回の発見は,かつての火星の環境が,初期地球のような水や有機物に富んだものだった可能性を示すものだという。
これまでに地球で確認されている200個ほどの火星隕石のうち,このような太古の火星物質を含むものは2個のみと,実はごく稀。しかし,火星の月であるフォボスには,地球まで届かないような火星物質も多く降り積もっており,その中には太古の有機物なども含まれる可能性がある。
火星衛星探査計画(Martian Moon eXploration; MMX)では,このようなフォボスの表面の物質を回収する計画となる。フォボスの試料を通して,火星の有機物史の解明や,さらなる火星生命の探求が,今後10年で飛躍的に進むだろうとしている。