クラレは,放射線検出用素材「PSF(プラスチックシンチレーションファイバー)」で,「第52回日化協技術賞」の技術特別賞を受賞した(ニュースリリース)。
日本化学工業協会が主催する「日化協技術賞」は,優れた化学技術の開発や工業化によって化学産業ならびに経済社会の発展に寄与した事業者を表彰するもの。今回,同社はPSFにおける技術開発と製品性能,世界的な研究機関への安定供給実績,民生用途への拡大などが評価されての受賞となった。
PSFは,1980年代に独自の製法で開発したプラスチック製光ファイバー。コア(内側)は蛍光剤入りのポリスチレン樹脂,クラッド(外側)はメタクリル系樹脂の多重構造で,放射線が当たると光る性質を備えている。
高い発光量と,透明性,優れた線径精度は,世界中の研究者に認められ,放射線検出用素材のデファクトスタンダードとなっている。PSFはメタクリル樹脂の生産事業所である新潟事業所にて生産している。
同社のPSFは,2013年にノーベル賞を受賞した「ヒッグス粒子発見」の舞台となった欧州原子核研究機構(CERN)を始め,世界中の主要な素粒子物理学および宇宙物理学研究機関に採用されている。
最近では,CERNのLHCb実験グループが構想した「従来にない高い空間分解能を有する大型の素粒子飛跡検出器」実現のため,従来よりも細い0.25mm径のPSFにおいて,光学性能,線径精度,欠陥レベルの大幅改善を達成し採用された。この実験への貢献が評価され,2018年にはCERNの「Industry award」も受賞している。
PSFで培った技術を応用した画像伝送用のプラスチックイメージングファイバーが,ガラス製に比べて曲げやすく折れにくい特性と,高い画像伝送性能を有することから医療用途に採用されるなど,この技術を使った製品は,民生用途にも適用範囲を広げているとしている。