名古屋工業大学の研究グループは,SiC結晶の表面への電流の流れを,様々な温度や表面の状態において,数値化することに成功した(ニュースリリース)。
電車や自動車の速度の制御や,送配電系統の電圧の変換には半導体素子であるパワーデバイスが用いられる。そのようなパワーデバイスを作るための新規結晶材料として,シリコンカーバイド(SiC)の利用が期待されている。
すでにSiC結晶によるパワーデバイスは次世代の新幹線などに採用されるなど,一部の分野で実用化が始まっており,大幅な消費電力の削減が報告されている。しかし,発電所から送電される電力などの電力インフラにおいては,さらに大きな電力の電圧変換する大電力パワーデバイスが必要となる。
そのような大電力パワーデバイスを作るには,SiC結晶内部に均一に電流を流す必要があるが,結晶には必ず表面が存在し,表面再結合という現象により電流は勝手に表面へと流れてしまう。従来この表面への電流の流れは数値化されておらず,パワーデバイスの構造設計を困難にしていた。
この研究はSiCの様々な結晶表面(SiC結晶には向きによって異なる表面がある)に対して光照射により電子と正孔を作り,それらの表面において電子と正孔の消える速さを計測した。
そしてその速さを計算モデルと比較することで,表面への電流の流れを数値化した(縦軸のS(表面再結合速度))。また,その数値の温度依存性や,結晶内の伝導型への依存性も明らかにした。
得られた表面再結合速度の数値は,SiCによる大電力パワーデバイスの構造設計に利用できる。その結果SiCパワーデバイスの設計が容易となり,パワーデバイスの製造コスト削減につながるとしている。