日本電信電話(NTT)は,世界で最も高速な800GHzを超える電流利得遮断周波数を有するトランジスタの開発に成功した(ニュースリリース)。
同社ではこれまでトランジスタの高周波化により,利活用できる周波数帯域を拡張してきたが,トランジスタのスイッチング速度の指標となる電流利得遮断周波数(fT)は700GHz台で飽和傾向にあり,将来の通信大容量化やTHz帯のアプリケーションを実現する上での潜在的な課題となっていた。
今回,独自のInP系化合物半導体の結晶成長技術及びHBT製造技術を発展させ,厚さ約10nmの半導体結晶層内に電子を加速する構造を組み込むとともに,幅50nmの電極構造を形成することで,世界で最も高速となる800GHzを超える電流利得遮断周波数を有するトランジスタの実証に成功した。
今回同社は,独自の原材料制御法を用いた有機金属化学気相堆積法により,エミッタにインジウムガリウムリン(InGaP),ベースにインジウムガリウム砒素アンチモン(InGaAsSb),コレクタにInPを用いた高品質なHBT構造を結晶成長することで,電流利得,耐圧といったトランジスタの主要な特性を損なうことなく世界最高の高速性能を実現した。
また,一般にトランジスタの高速化に向けては,電子走行時間と寄生容量を削減することが重要となる。コレクタの走行時間を減らすためにはコレクタの薄層化が効果的だが,逆に寄生容量が増大することから,高速化に大きな制限があった。
今回,寄生容量の要因となるベース電極幅を従来の約200nmから50nmへ高精度に微細化する製造技術を新たに構築し、ベース電極面積を約70%低減することに成功した。これにより,コレクタを従来よりも薄層化しても,寄生容量を増加させることなく電子走行時間を短縮することが可能となり,HBTにおいて従来の限界を超える高速化を実現した。
このトランジスタを集積化することにより,THz帯(>300GHz)で動作可能な超高速な集積回路の実現が見込まれ,マルチTb/s級の光伝送やTHz帯を利用した大容量無線通信といった情報通信システムの高度化だけでなく,THz帯の周波数特性を生かした高精度なセンシングやイメージング等も期待されるとしている。