東京大学,名古屋工業大学,名古屋大学,生命創成探究センター(ExCELLS),イスラエル工科大学,チェコ科学アカデミーの研究グループは,全ての真核生物の祖先に近いとされるアスガルド古細菌の持つシゾロドプシンと呼ばれるタンパク質が,光エネルギーを使って細胞内へ水素イオンを取り込む機能を持つ分子であることを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
真核生物に最も近いアスガルド古細菌と呼ばれるグループの原核生物は,光のエネルギーを使ってさまざまな生理機能を発揮するロドプシンの一種,シゾロドプシンを持つが,具体的な機能は明らかになっていない。
今回,研究グループはシゾロドプシンの機能を調べるため,大腸菌の細胞中に大量のシゾロドプシンを発現させることに成功した。そしてその機能を解析したところ光を照射すると細胞内に水素イオンを輸送する,内向き水素イオンポンプ機能を持つことが明らかとなった。
このような光で細胞内に水素イオンを輸送するロドプシンは,古細菌とは進化的に遠く離れた一部の細菌でのみ知られていたが,この発見により真核生物に進化する直前のアスガルド古細菌も光を使って細胞内に水素イオンを取り込んでいることが初めて示唆された。またさらにシゾロドプシンは海洋に広範に棲む未知の微生物グループにもあることがこの研究の中で見いだされた。
次に,研究グループはシゾロドプシンがどのようにして光エネルギーを使って,細胞内へ水素イオンを運ぶのか,そのメカニズムを明らかにするために,タンパク質を精製してその性質を詳細に調べた。
その結果アスガルド古細菌のシゾロドプシンは,主に557nmの光を,海洋性微生物のものは542nmの光を吸収することが示され,棲息する環境や生物種によって利用する光の波長(色)が異なることが示唆された。また,同一の3つの分子が集まった三量体構造を持つことも明らかになった。
さらに,光を吸収した際にタンパク質の中で起こる反応や分子構造変化を,ナノ秒レーザーを用いた高速分光計測や高精度の赤外分光計測で解析したところ,シゾロドプシンはレチナールとタンパク質内外の溶媒との間で,水素イオンをやり取りすることで,細胞内へ一方向的に水素イオンを輸送することが明らかになった。
この際にはタンパク質を構成する複数のアミノ酸がタンパク質内部での水素イオンの移動に関わることが示唆されており,今回の研究では少なくとも4つのアミノ酸が特に重要な役割を持つことが,アミノ酸改変体タンパク質を用いた実験で明らかにされた。
今後は,シゾロドプシンが脳神経疾患やアシドーシスなどの疾患研究のための分子ツールとなることが期待されるとしている。