東大,電磁双対性の量子異常を決定

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の研究グループは,ジェームズ・マクスウェルが約150年前に確立した電磁気学におけるマクスウェルの方程式から示される電磁双対性に着目し,電磁双対性を量子力学的に扱った際に生じる量子異常を決定した(ニュースリリース)。

約150年前,物理学者のジェームズ・マックスウェルは,マックスウェル方程式と呼ばれる一連の方程式を生み出し,古典電磁気学を記述した。この方程式は,電磁双対性と呼ばれる,電気と磁気を入れ替える対称性を持つことが知られている。

この電磁双対性を電荷を持つ粒子に適用すると,N極とS極の片方のみをもつ粒子になる。この粒子は磁気単極子(モノポール)と呼ばれ,実験ではまだ見つかっていない。

その後1931年にポール・ディラックは,電磁双対性に関して,”電荷のディラック量子化” を指摘した。これは,もし磁気単極子が存在すれば,宇宙の全ての電気的粒子の電荷はある最小電荷の整数倍になることを意味する。

この電磁双対性が量子力学的にどうなるかを考えるのは自然な問題だが,従来あまり研究されてこなかった。特に,時空のある方向を一周したときに電磁双対性が作用するような場合にはほとんど既存研究はない。

研究グループはこの電磁双対性に着目。電磁双対性を量子力学的に扱った際に生じる量子異常を決定した。更に,この結果から弦理論に生じる自己矛盾を多くの場合で解消し,弦理論の一貫性を保持できることも示した。

長らく行なわれてきた弦理論の研究の過程において,一見したところ自己矛盾している箇所がみつかるものの,さらに研究を深めると,意外かつ精妙な仕組みでその自己矛盾が解消するということが何度も起きている。今回の成果もこの一例と考えることができるという。

この研究は弦理論の正否とは関係なく,純粋にマックスウェル理論に関する結果でもあり,150年も研究されているマックスウェル電磁気理論に,これまで知られていない性質がまだあるということから,この研究は弦理論を研究していない物理の研究者にも興味ある結果かもしれないとしている。

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