近畿大ら,重力レンズで星間ガス雲を観測

近畿大学,台湾 中央研究院天文及天文物理研究所,国立天文台,東京大学の研究グループは,チリの巨大電波干渉計「アルマ望遠鏡」による観測で,地球から110億光年離れた銀河の中心にある超巨大ブラックホールから噴き出す超高速のガス流(ジェット)によって,銀河中の星間ガス雲が激しく揺さぶられる様子を,高解像度で撮影することに成功した(ニュースリリース)。

ほとんどの銀河の中心には,巨大ブラックホールが存在している。巨大ブラックホールのなかには,その周囲の物質が降り積もってできた円盤から強い光が放射されるもの(クエーサー)や,吸引した物質の一部を細く絞られた超高速のガス流(ジェット)として噴出しているものがある。

ジェットは銀河中の星と星の間にあるガスの雲(星間ガス雲)と衝突し,星の材料となる大量のガスを押し出すことで星の形成を抑制するなど,銀河の進化に大きな影響を与えると考えられている。

しかし,ガス流出を引き起こす原因がジェットなのか,それともブラックホールを取り巻く円盤から放たれる強い光なのか,まだ分かっていない。比較的地球に近い銀河では,ジェットが星間ガス雲に衝突し,ガス流出を引き起こす様子がすでに観測されている。

しかし,銀河進化の初期の様子を調べるためには遠くの銀河を観測する必要があり,従来の観測機器では解像度が足りず,鮮明な映像を捉えることはできなかった。

そこで研究グループは,アルマ望遠鏡を用いて,地球から遠く110億光年の距離にある天体を観測することにした。観測対象は,クエーサーの1つ「MG J0414+0534」で,このクエーサーは,「重力レンズ効果」を受けている天体として知られている。

重力レンズ効果とは,地球と光を放つ天体の間にある別の天体の重力がレンズの役割を果たし,天体が放つ光の経路が曲げられる,「天然の望遠鏡」というべき働きをする現象。重力レンズ効果により,このクエーサーは4つの像として見えることに加え,個々の像も大きく拡大されて見える。アルマ望遠鏡の性能に加え,重力レンズ効果の働きで,110億光年先にあるこのクエーサーの周囲の星間ガス雲の動きを高い解像度で観測することが可能になった。

その結果,このクエーサーの周辺では,ジェットに沿って星間ガス雲が秒速600kmにも達する速さで激しく運動していることが明らかになった。110億光年もの遠方の銀河で,ジェットと星間ガス雲の衝突の現場が画像として見えてきたのは,これが初めてとなる。

今回の観測は,銀河の巨大ガス流出が引き起こされるメカニズムを解明する重要な手がかりとなるとしている。

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