早稲田大学の研究グループは,外部から固体触媒に電位を与えることで,低温で化学反応が速く進む手法を世界で初めて発見した(ニュースリリース)。
スウェーデンのスヴァンテ・アレニウスは,1884年に化学反応は高温になるほど速く進むことを明らかにし,アレニウスの法則として有名な原理となった。研究グループは,外部から固体触媒に電位を印加すると,この法則に反して低温ほど反応が速く進むことを発見し,その原因を探ってきた。
化学品や水素運搬体として期待されるアンモニアを,窒素と水素から作る反応はハーバーボッシュ反応として知られ,大規模に工業化されているが,400度程度の高温と250気圧程度の高圧が必要だった。
研究グループは,半導体性を有する固体触媒に,外部から電位を与えることで,この反応が200度以下の低温でも速やかに進むことを見いだした。さらに,200度以下の領域では,温度を下げたほうが反応速度が速くなる現象を発見した。
一般的に,反応速度が低温で優勢になるのはアレニウスの法則に従い吸着現象のみだった。しかし反応速度と吸着の相関を検討したところ,触媒表面でイオンが動く際に,吸着が多くなる低温で反応速度が速くなるというメカニズムが明らかになった。これは化学反応速度がアレニウスの法則に従うという過去の常識を打ち破る,新しい概念となる。
温度を自在に制御できる反応装置に,独自の固体触媒を設置し,外部から電場を与えて反応速度を評価し,非アレニウス法則(アレニウスの法則に従わない)型の反応となることを示した。
続いて,赤外スペクトルにおいて,透過法と反射法を駆使して,固体触媒表面への吸着量を電場の有無,温度の違いで丁寧に評価し,科学的なモデルを構築した。最後にモデルによる計算結果と実験結果を照らし合わせたところ,見事に整合することが実証され,非アレニウス法則型の反応がどうして,どのように起こるのかを,吸着と速度の関係から明らかにした。
再生可能エネルギー由来の電力を利用し,低温で欲しいときに欲しいだけ化学反応が進められ,さらに温度が低い方が反応速度は上がるという現象は,これまでにない新しい特長を有している。欲しいときに欲しいだけ,室温などの低い温度で物質変換が可能になるという,化学反応の世界にパラダイムシフトをもたらすものになる。
このようなメカニズムで反応が進む例はまだ限られているため,再生可能エネルギーを活かして,エネルギーや物質を創り出す多様な反応を,低温で選択的に進められるような材料を探索し,今後も展開を進めていくとしている。