京都大学の研究グループは,薄膜化した際に励起状態が長寿命化する電子受容性材料を開発し,また,その材料を用いた有機薄膜太陽電池は,10%程度の高いエネルギー変換効率を実現した(ニュースリリース)。
有機薄膜太陽電池の発電層は,電子が不足している電子受容性材料と,電子を豊富に有する電子供与性材料からなる混合薄膜でできている。そのため,高いエネルギー変換効率を実現するには,これらの材料をどのように設計するかが実用化に向けて重要なポイントとなる。
研究では,電子受容性材料の分子間相互作用を制御することに着目した。電子受容性材料が励起状態になると,振動運動や回転運動が激しくなってしまい,太陽光から得たエネルギーを電荷の発生に使うことなく,運動エネルギーとして失ってしまう場合がある。
バンドギャップが小さい材料は,そのような運動エネルギーへの変換が行なわれやすいために,励起状態の寿命が短くなる。そこで,薄膜中での分子間相互作用により分子を動きにくくすることができれば,励起状態を長寿命化し,太陽光から得たエネルギーを効率よく電荷の発生に使うことができる。
高いエネルギー変換効率を達成する非フラーレン型の電子受容性材料の設計指針として,比較的電子豊富な部位を,強力な電子不足部位で挟んだ構造を導入したITICという電子受容性材料では10~13%という高いエネルギー効率が実現されている。
この研究では,ITICの比較的電子豊富な部位に,ベンゼン環やピリジン環が二次元平面状につながった構造を組み込んだTACICを合成した。二次元平面構造部位は,薄膜中で強い分子間相互作用を示すことがわかっており,TACIC膜はITIC膜と同程度の小さなバンドギャップを有するにも関わらず,励起状態の寿命は50倍以上長くなった。
TACICを用いた有機薄膜太陽電池は9.92%のエネルギー変換効率を示し,この値は研究グループがITICを用いて作製した有機薄膜太陽電池でのエネルギー変換効率(9.71%)に比べて,わずかながら向上することがわかった。
発電層の膜構造を詳細に調べると,TACICと電子供与性材料との混合具合は,ITICと電子供与性材料との混合に比べて細かくないことがわかった。にも関わらず,TACICの励起状態が長く続くため,電荷の発生効率は両者でほぼ同程度であることがわかった。
今回,開発した電子受容材料のように励起状態が長寿命化すれば,原理上ナノレベルの混合をする必要がなくなるため,有機薄膜太陽電池の実用化に向けた非常に大きな一歩となるとしている。