東大ら,キラル結晶が発現するスピン特性を解明

東京大学,理化学研究所,東京工業大学,産業技術総合研究所,広島大学,高エネルギー加速器研究機構の研究グループは,キラルな結晶構造に由来して発現する固体内スピンの特性を,テルル単体を用いた実験から明らかにした(ニュースリリース)。

自然界には,右手と左手,右ネジと左ネジのように,鏡に映した姿がもとの姿と重ならないものがあり,これらの性質をキラルであるという。2つの非等価なキラルな結晶,いわゆる右手系と左手系の結晶は,自然界において,生物学的,化学的,物理的にそれぞれ異なる反応を示す。

またキラルな結晶構造を持ち,かつ強いスピン軌道相互作用を伴う物質では,電子の磁石としての性質であるスピンに由来した磁気的性質が,非磁性材料にも関わらず発現し得ることが,20 世紀の半ばから知られていた。ところが,その物性を司るスピン偏極した電子構造の直接的な観察は,これまで成功していなかった。

この研究では,キラルな結晶構造を有するテルル単体を研究対象とし,スピン分解・角度分解光電子分光を用いて,スピン構造の直接観測を行なった。重元素であるテルル原子は強いスピン軌道相互作用を有しているため,電子とスピンが強く結合した状態が期待される。

この研究では,熱濃硫酸で表面処理した際にできる腐食孔の形によって右手系結晶と左手系結晶を判別し,それぞれの試料に対して,詳細な電子構造およびそれに付随するスピン偏極構造を観察した。

まず,左手系結晶に対してスピン分解・角度分解光電子分光実験を行ない,スピン構造を調べた。その結果,電子のz方向の運動量が,z方向のスピンのみと結合していることがわかった。通常,スピン軌道相互作用は,電子の運動量と垂直な向きにスピンを結合させたがる性質がある。

しかし,今回の結果は,それに反して,運動量と平行方向にスピンが結合していることを示している。つまり,スピンが運動量空間において放射状に広がる特異な振る舞いを同定したことになる。さらに,右手系結晶の測定も行なうことで,左手系結晶とはスピン構造が反対向きになることを見出した。

スピン構造に見られるこれらの特異性は,キラルな結晶構造に特有の電子状態に由来するものであるといえ,第一原理電子構造計算によって再現されることを確認しているという。

今回の結果は,強いスピン軌道相互作用を有するキラルな結晶が,有望なスピントロニクス材料であることを示しており,今後,電子・スピン変換デバイスの研究開発への進展が期待されるとしている。

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