大型低温重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)が観測を開始した(ニュースリリース)。
KAGRAは,東京大学,高エネルギー加速器研究機構,国立天文台を共同ホスト機関とした協力体制のもと,国内外の研究機関・大学の研究者と共同で岐阜県飛騨市に建設された。2019年秋の完成後,感度を高めるための調整,試験運転が続けられていたが,2020年2月25日,重力波観測のための連続運転が開始された。
重力波とは,質量を持つ物体が運動するときに発生する「時空のゆがみ」が波となって光と同じ速さで宇宙空間を伝わる現象で,1915年から1916年にかけてアインシュタインが発表した一般相対性理論から導かれた。
ただし,その時空のゆがみは大変小さいため観測が難しく,アインシュタインの予測から約100年経った2015年にようやく米国の重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)が初めて観測に成功した。
地球上の重力波望遠鏡で観測ができそうな重力波を発生する天体現象としては,星の一生の最期である超新星爆発や,中性子星やブラックホールの連星の合体(衝突)などの激しい天体現象が考えられるという。
2015年のLIGOによる重力波の初観測は,2個のブラックホールが合体したときに発生したものだった。また,2017年にはLIGOと欧州の重力波望遠鏡Virgo(ヴァーゴ)の共同観測で2個の中性子星の合体からの重力波を検出した際は,重力波に続いて到達したガンマ線や可視光などの電磁波を世界中のさまざまな望遠鏡で観測することに成功,「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれる新しい天文学の幕開けとなった。
これまで,宇宙からの重力波を観測できる重力波望遠鏡は米LIGOの2台と欧州Virgoの計3台が稼働していた。大型低温重力波望遠鏡KAGRAは,世界で4台目,アジア地域では初の重力波望遠鏡として,観測を開始した。
KAGRAは,LIGOやVirgoと同様に1辺の長さが3kmのL字型の2本の長い腕を持ち,2つに分けたレーザーの光をそれぞれの腕で何度も往復させ,最終的に光の干渉を用いることで重力波によって引きおこされたわずかな空間の伸び縮みを検出する。
このとき,腕の両端に設置したレーザーを折り返す鏡が,重力波以外の原因によって振動することをいかに抑えるかが検出器の感度向上の鍵となる。KAGRAでは,望遠鏡を飛騨市の岩盤のしっかりした山の地下に設置して地面振動の影響を軽減し,さらに鏡を-253℃まで冷却して熱振動による影響を軽減する。この,「地下にある」ことと「鏡を冷やす」ことが,他の重力波望遠鏡にないKAGRAの大きな特長だという。