京大,CNT内の水の挙動をX線で解明

京都大学の研究グループは,合成ナノチューブの疎水性の内部空間で水が示す不思議な性質を解明した(ニュースリリース)。

カーボンナノチューブ(CNT)に水が閉じ込められた際には,特殊な氷の構造になったり,凍る温度が不明瞭になったり,異常に低い粘性を示したり,高速で水素イオンが動き回ったり,といった興味深い挙動を示すようになることが,主に理論研究により提唱されるようになった。

しかし,CNTは,合成にあたって主に1000℃以上の高温を必要とするために,サイズや形状,そして性質を精密に制御することが困難となる。このため,得られるCNTのサンプルには様々な大きさのものが混じってしまい,CNTに閉じ込められた水の挙動を実験的に詳しく調べることは難しいという問題があった。

このような背景から,疎水性のナノサイズの空間における水の振る舞いについては,主に理論研究による”予測”のみが先行し,実験的な裏付けが乏しいままだった。

今回,研究グループは,金属イオンや有機分子をパーツとして組み上げる,ボトムアップ法によって作成できる合成ナノチューブに着目した。そして,直径がおよそ1nmで形状が完全に揃った疎水性の内空間を持つナノチューブの結晶を作成し,その内空間に水を取り込ませることに成功した。

このナノチューブ中の水の構造をX線回折の手法を用いて観測したところ,4つの水分子の“塊”と8つの水分子の“塊”が規則正しく交互に繰り返したような,普段目にする氷とは異なる,特殊な構造となっていることが明らかになった。

そこで,この特徴的な水分子のネットワーク構造を内空間に持つナノチューブの結晶のプロトン伝導度について,様々な測定手法を用いて多角的に解析を行なった。その結果,ナノチューブ内では水素イオン(プロトン)が高速で動くことを,実験的に確認することに成功した。

さらに,このナノチューブ内にいる水は,温度を変化させても水の状態と氷の状態の変化の境目が完全に不明瞭となっていることも実験的に実証した。通常の水が0℃(氷点)において氷に変化するのに対し,ナノチューブ内にいる水は明確な氷点が無く,温度を下げていくにつれてゆるやかに氷の状態に変化することを示している。こうした事実からもチューブ内の水が“不思議”な状態にあることがわかるという。

ナノサイズの疎水性空間における水の特異な性質が実証されたことで,生体内の膜タンパク質が持つ高い物質輸送性能に対する理解が進展するという。さらに,この研究成果が,高効率な水の浄化膜や高機能な燃料電池といった,有用な材料の開発に貢献することも期待されるとしている。

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