筑波大学,コンフレックス,豊橋技術科学大学,東京大学の研究グループは,従来の有機半導体の移動度予測では必須とされる単結晶構造の測定データを使わずに移動度を予測するシミュレーションに成功,その有用性を実際の材料を用いて実証した(ニュースリリース)。
有機半導体は低温プロセスでの印刷が可能な次世代電子材料として期待されている。印刷性能を持った,さまざまな新規有機半導体分子が合成されているが,RFIDタグ(電波を用いた無線通信により,個別識別コード情報(ID)をやりとりするタグ)やセンサーなどのハイエンドデバイスに使える高移動度な分子を開発するのは容易ではない。
現場ではまず半導体分子をデザインして合成し,結晶成長条件などを調整して単結晶を作製する。得られた単結晶を用いて結晶のX線構造解析を実施し,材料に適したトランジスタを作製することで,ようやく移動度が評価され,材料としての良し悪しが判別されている。有機半導体の実用化を推進するには,この材料開発プロセスの効率化が鍵となっている。
これまでも,シミュレーションを用いた移動度予測の研究はあるが,結晶構造のデータがなければできず,単結晶を用いたX線構造解析実験が必須となっている。また,化学構造式から結晶構造を理論予測する研究もあるが,予測精度に課題がある。一分子の化学構造式から,分子集合体である有機半導体の移動度などを迅速に高精度で予測する方法論の開発が望まれていた。
研究グループは今回,多くの試行錯誤を必要とする単結晶作製とそのX線構造解析を実施することなく,分子の化学構造式から移動度を予測するシミュレーションに成功した。
筑波大は,予測構造に対する移動度の大きさと温度依存性を迅速に予測する大規模量子伝導シミュレーション法を開発してきた。また,コンフレックスと豊橋技科大は,網羅的な結晶構造探索とエネルギー評価による結晶構造予測シミュレーション法を開発してきた。
今回,これらのシミュレーション法に,大きな単結晶よりも簡便に得られる粉末結晶のX線回折パターンを利用した新しい評価法を導入することで予測精度を向上させ,予測時間も短縮させる方法論を開発した。
さらに,東大が開発した高性能半導体分子C10-DNBDTにこれらの手法を用いたシミュレーションを適用した結果,東大が測定によって明らかにした結晶構造やトランジスタ移動度を精度良く再現することを実証した。
ここで提案した方法は,有機半導体の移動度予測だけでなく,熱電物性などの機能予測にも拡張可能だという。また,この方法により材料開発の加速化が大いに期待されるとしている。