東京理科大学,物質・材料研究機構の研究グループは,光熱偏向分光法の改良により,光を吸収して熱を放出する試料について,光エネルギーを別のエネルギーに変換するエネルギー変換効率を測定することに成功した(ニュースリリース)。
光熱偏向分光法は,光を吸収する物質であればどのような形態・性質の試料であってもスペクトルを取得できるため,非侵襲の物性分析法として大きなポテンシャルがある。
しかしその反面,試料に吸収させる光源(励起光)にレーザー光を使用するため,使用可能な波長の範囲が狭いこと,光を検出するセンサーや吸収から測定までの光路の物理的な限界により,測定時の振動などによるノイズが出やすいことなどの欠点もあり,より高感度で汎用性の高い測定方法の開発が望まれていた。
今回,研究グループでは,振動などの影響を受けにくいSagnac干渉計を用いた光熱偏向分光測定系に,光を複屈折させる方解石の結晶を導入して,プローブ光源であるレーザー光を光熱信号が乗るプローブ光と,信号が乗らない参照光に分割した。
両者が完全に同強度,平行となる光路設計を実現してその強度差を検出することでプローブ光ノイズをキャンセルし,白色LEDの高効率赤色蛍光体であるCaAlSiN3:Eu2+を試料として,吸収スペクトル(発光励起スペクトル)と熱緩和スペクトル(発熱励起スペクトル)を得た。
この両者を比較したところ,試料が強い蛍光を示す波長の近傍で,熱緩和スペクトルの強度が低下し,吸収スペクトルとの差分が著しく拡大していた。このことは,蛍光を示す波長の付近で,光エネルギーのほとんどが蛍光発光に変換され,熱エネルギーとしての放出が行なわれなくなったことを示す。
この研究成果は蛍光体だけでなく,太陽電池や植物の光合成など,多くの物質や装置の光エネルギー変換効率を簡便に,また高い信頼性を持って測定できる方法となり得るという。
また,既存技術による変換効率の改善や,新たなエネルギー変換装置の開発などが促進され,エネルギーの高効率な変換による,省エネルギー社会の実現にも貢献するとしている。