北海道大学,セルスペクトの研究グループは,一度に多数のサンプル中の大腸菌数を早くて安価な上,簡単に測定できる技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
現在,大腸菌数はシャーレに大腸菌用の寒天培地を入れ,培地の上でサンプル中の大腸菌を培養し,コロニー数を数えることで測定されている。しかし,従来の方法は結果を得るまでに24時間程度かかり,最大の問題だった。研究グループは,わずか2時間で大腸菌数を測定できる新手法の開発に成功した。
具体的には,大腸菌の液体培地の中に蛍光基質を加えたものをマイクロプレートに0.02mL入れた後,液体サンプルを0.18mL入れる。このマイクロプレートをマイクロプレートリーダーにセットし,37℃で温めながら10分ごとに培地の蛍光強度を自動で測定する。測定はわずか2時間で終了するだけでなく,蛍光強度が上がっていく度合いから大腸菌の数がわかる上,サンプルを事前に処理する必要も全くない。
この新手法開発成功のカギは,大腸菌が持つ酵素に着目した点にある。この酵素は基質のみを分解する働きを持っているため,酵素に分解される前は蛍光を発せず,分解後にのみ蛍光を発する基質を用いることで大腸菌の存在を知ることに成功した。
研究グループは,測定の一例として未処理及び処理された下水を測定した。測定原理を明らかにするためにまず遺伝子を測定した。大腸菌は,測定開始から4時間程度から増殖し始め,この段階で急激に蛍光強度が増大した。
従来の方法ではこの強い蛍光を測定しているが,この研究で用いた高感度の装置により,大腸菌が増殖する前の培養開始直後の微弱な蛍光も30分以内に検出できたため,わずか2時間で大腸菌の数を測定できた。この手法では,下水のような汚れたサンプルでも事前の処理なく測定できたほか,分解能は高く,80MPN/mLと96MPN/mLの差も十分判別できた。
従来の方法では,大腸菌数が多いサンプルは希釈しなければいけないが,この手法では10~10,000MPN/mLの範囲であれば希釈しなくても測定できる上,10ヶ月に渡り何の問題もなく下水中の大腸菌数を測定できた。
さらに,未処理の下水も処理した下水も同じ方法で測定できるほか,測定に使用する試薬が0.02mLでよく,一度に96サンプルも測定できるため,1サンプルあたりの測定コストは約2円と非常に安価であることも特長(マイクロプレートリーダーのコストは除く)。
研究グループは大腸菌数が1MPN/L程度という低濃度のサンプルの測定や,河川水や牛乳中の大腸菌数の測定にも成功している。今後は浄水場や食品加工場,開発途上国の井戸などの実際の現場で使用していくとしている。