東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) ,京都大学,弘前大学,国立天文台,名古屋大学の研究グループは,現在の宇宙で観測される銀河の大域的空間分布に見られる「網の目構造」の起源を調査するために,国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイ」及び「アテルイII」を用いて,大規模な宇宙の構造形成シミュレーションを実行した(ニュースリリース)。
宇宙論的に有用な知見を引き出すためには,スーパーコンピュータを用いた数値計算が極めて有効であることが知られているが,多次元の宇宙論パラメータ空間においては現在利用可能な最大の計算資源を以てしても,そのシミュレーションを実行することはできなかった。
今回研究グループは,ダークマター,ダークエネルギーなどの宇宙の組成,またインフレーションモデルが予言する宇宙の初期条件に関するパラメータが構成する多次元空間から101個の代表点を選び出し,これら全てを網羅するシミュレーション群を実行することで,大規模なデータベースを構築した。
さらに,このデータベースを分析するAIフレームワーク「ダークエミュレータ」を開発し,「任意の」宇宙モデルにおける宇宙の大規模構造の観測量を正確かつ高速に計算することに成功した。
ダークエミュレータを用いることで,スーパーコンピュータでは数日かかる理論予言を,元々のシミュレーションの結果と遜色のない精度を保ちながらもノートパソコンで数秒以内に計算することが可能になるという。
これは計算コストをおおよそ1億分の1に低減したことになり,実観測データから宇宙の根源的な情報を引き出す操作を飛躍的に高速化することを可能とした成果だとしている。