理科大ら,ソフトマター的挙動の電子発見

東京理科大学,東北大学,東京大学の研究グループは,ある種の有機固体物質の中で,電子の動きが極端に遅くなり電子がソフトマター的挙動を示していることを見出し,さらにその発現メカニズムを解明することに成功した(ニュースリリース)。

モット転移は,結晶構造に乱れが無い理想的な場合では,水から水蒸気への変化と同質の急激な変化である「1次相転移」となることが知られていたが,乱れのある現実物質でどのような変化となるかは未解明だった。

研究グループは,結晶構造の乱れを制御した実験系において電子の振る舞いを検証するために,電子相関と結晶構造の乱れを,加圧とエックス線照射によって,それぞれ独立に制御できる擬二次元有機物質ĸ-(ET)2Cu[N(CN)2]Cl(ĸCl)を試料として用いた。

その結果,核磁気共鳴(NMR)実験で,500時間エックス線照射することで乱れを導入したĸClとエックス線照射を行なっていないĸClの電子状態を調べた結果,500時間エックス線照射されたĸClでは電子の動きが100万倍から1億倍も遅くなっていることが明らかになった。

この結果は,乱れの導入によって,モット転移近傍に位置するĸClにおいて,電子がソフトマターのように振る舞う特異な状態が生じていることを意味しているという。さらに,500時間エックス線照射されたĸClに圧力を加えることによって,ソフトマター的な振る舞いを示す電子状態は消失した。

これらの結果から,研究グループは,試料が(1)モット転移近傍に位置する,(2)結晶構造に乱れを有する,という2つの要因を同時に満たすことが,電子がソフトマター的な振る舞いを示す条件であると結論付けた。

水から水蒸気への変化に代表されるような,物質がある状態から別の状態への急激な変化は「1次相転移」と呼ばれる。モット転移も結晶構造に乱れが無い場合は,この「1次相転移」になることが知られていた。この研究においては,結晶構造に乱れを導入した場合には,このモット転移の「1次相転移」性が消失し,代わりに「ソフトマター」性が現れることを見出したことになる。

これは磁性物理学において議論されてきた「磁気グリフィス相」という概念に類似しており,電子のグリフィス相ということで「電子グリフィス相」と呼ぶべき特異概念により,ソフトマター性が現れたと解釈することができるという。

これまで電子物性物理学とソフトマター物理学はほとんど独立に発展してきたが,この研究は両学問分野をつなぐ重要な成果で,今後,分野間の垣根を超えた議論が展開されるとしている。

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