阪大ら,世界最薄膜の磁気センサーシステム開発

大阪大学,独ライプニッツ固体・材料研究所の研究グループは,世界最薄膜・最軽量の磁気センサーマトリクスシートシステムを開発することに成功した(ニュースリリース)。

シート型のセンサーシステムはどのような場所にでも貼りつけて密着させた形で使用することができるため従来よりも高精度な物理情報を得ることが期待できる。物理情報の中でも磁気情報は,磁気の障害物透過性の高さから空間分解能が高く,2次元のシート型システム化することで電気情報よりも遥かに高精度な情報を得ることが期待できる。

ところが,従来の柔軟な磁気センサーは磁気センサー素子を1つだけ配置したものや多数の素子を用いたものでも素子をただ並べただけであり,システム化に必要な駆動用回路,センサースキャン機構,信号処理回路や無線計測器などを統合したものの報告例はなかった。これは柔軟な磁気センサー用素子の作製自体が難しく,その作製プロセスと回路技術を統合することが困難というのが理由となる。

そこで研究グループは有機トランジスタと呼ばれる柔らかい電子素子と巨大磁気抵抗素子と呼ばれる磁気センサー素子を同一基板上に集積する技術を開発することで,磁気センサーマトリクス,電源回路,自動センサースキャン機構及び信号増幅回路を全て備えた世界初の柔軟磁気センサーマトリクスシートシステムの開発に成功した。回路は,厚さ1.5μmのプラスチックフィルム上に製造され,人の肌であっても違和感なく貼り付けることができる。

この柔軟な磁気センサーシートシステムを用いることで,従来の柔軟磁気センサーよりも1桁程度感度を向上させ,さらに自動センサースキャン機構を用いて2次元表面の磁気分布の可視化に成功した。また,無線計測器と統合することで指のワイヤレスなモーションセンシングへの応用例も実証した。

磁気は物質を透過する性質があるため,この研究のように磁気分布を高感度で検出できるようなシート型センサーがあれば,電気的信号を用いた従来センサーよりも高精度なセンシングがどんな形状の対象物でも可能になることが期待できる。

例えば,鉄筋構造物に貼り付けて使用すれば,鉄筋の劣化により発生した磁気の歪みをマッピングすることで劣化箇所の正確な特定まで可能になることが期待できる。

また,よりセンサーの高感度化が進めば,心臓の磁気マッピングが可能となり従来の心電計測よりも高精度な診断が期待できる。昔に建造した構造物の劣化や健康問題は現代日本が抱える課題であり,この研究はその課題を解決する一助となるとしている。

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