東京医科歯科大学,理化学研究所,東京大学の研究グループは,制御線に非線形フィルターを強く結合させることにより,量子ビットの短寿命化を阻止できることを発見した(ニュースリリース)。
通常の超伝導量子コンピューターでは,制御の対象となる量子ビット(データ量子ビット,DQ)に制御線を結合させ,そこからゲートパルスを照射する。この方式では,DQから制御線への自然放出が常に起こり,DQが保持する量子情報が徐々に劣化してしまう欠点がある。
研究グループは,制御線上に非線形フィルター(ジョセフソン量子フィルター,JQF)を結合させた状況での,DQへのゲート操作を解析した。JQFはDQと同じ共鳴周波数を持つ量子ビットであり,DQとJQFの間隔は,共鳴波長の半分程度(数mm)になるように設定する。
ゲートパルスが照射されていない間は,JQFは制御線への強い結合のために,最もエネルギーの低い状態である基底状態|0>へと素早く緩和する。すると,DQが励起状態|1>にあったとしても制御線への自然放出を起こさなくなる。
その理由はDQおよびJQFからの仮想的な自然放出光の破壊的干渉であり,反超放射(subradiance)と呼ばれる量子力学的な効果となる。一方でDQが基底状態|0>にある場合には,DQはそもそも自然放出を起こさない。つまり,JQFの効果により,DQはどのような状態にあっても制御線へと緩和しなくなり,DQの保持する量子情報が守られる。
すると逆に,制御線から照射するゲートパルスがJQFに遮断され,DQへのゲート操作ができなくなることが懸念される。ところが,DQへのゲートパルスを照射すると,JQFはこのパルスと強く相互作用して吸収飽和を起こし,すぐに基底状態|0>と励起状態|1>を半々の確率で占める状態(混合状態)になる。この状態ではJQFはマイクロ波を完全に透過させる。つまり,ゲートパルス照射中にはJQFは自動的に透明になり,DQに対する素早いゲート操作を可能にする。
このように,従来の制御方式ではDQの保持する量子情報は自然放出のため常に劣化していたが,JQFを用いることによりゲートパルス非照射中のDQの劣化を完全に抑えることができる。
この量子ビットの長寿命化方式は,既存の量子コンピューターでは全く考慮されていなかったものだという。そして超伝導量子コンピューターなど,固体系量子ビットを用いる量子コンピューターに応用可能だとしている。