北海道大学,北海学園大学の研究グループは,ワンステップの光照射でナノサイズの金属構造上に選択的に半導体ナノ構造を合成する新技術を開発した(ニュースリリース)。
研究グループでは,レーザー誘起水熱合成法を金属ナノ構造に応用し,金属ナノアンテナ構造のプラズモン励起を介した局所加熱により,金属ナノアンテナ構造上に直接酸化亜鉛ナノ発光体を合成する新しい方法(プラズモン支援水熱合成)を提案・開発した。
今回の新技術では,まず,数値解析的にナノ熱源として有効な金ナノアンテナ構造のデザインを行なった。この金ナノアンテナ構造はレンズの働きを持っており,光を照射すると光がナノ空隙に絞り込まれ閉じ込められて,極めて強い光のスポット(絞り込む前の1万倍以上の明るさ)を形成する。
特に設計した構造では,入射光の偏光方向により,異なる2つの局在場モードが励起される。横方向偏光では,バー構造とひし形構造の間の隙間に強く光が集光され,縦偏光では,中心のナノバー構造に光が集光される。
この光集光により,金ナノアンテナ構造が加熱され,照射偏光に応じて温度分布が異なる。構造設計では,中心のナノバー構造の温度が特異的に高くなるような設計を行なった。この計算結果を基に,ナノサイズの金ナノアンテナ構造を最先端微細加工技術により作製した。
ガラス基板上に厚み30nmの金ナノ構造を作製後,その構造をレーザー誘起水熱合成用の光学系にセットし,金ナノアンテナ構造のプラズモン励起による局所加熱により,酸化亜鉛の水熱合成を試みた。試作した構造について,電子顕微鏡画像やエネルギー分散型X線分析(EDS)測定により,酸化亜鉛合成を評価した。
その結果,設計した金ナノアンテナ構造のプラズモン励起を介した局所加熱により,狙った場所に選択的に酸化亜鉛を合成することに成功した。さらにEDS測定の結果から,金ナノアンテナ構造の中心のナノバー構造からのみ亜鉛信号を検出し,プラズモン支援により選択的に酸化亜鉛を合成したことを確認した。
今回の結果から,金ナノアンテナ構造の光学的特性と熱的特性の両方を考慮することで,プラズモン共鳴の選択的励起により,金ナノアンテナ構造上に局所的かつ選択的に酸化亜鉛を合成できることを初めて実証したほか,レーザー照射による金ナノアンテナ構造のプラズモン励起によるナノスケール領域での局所加熱で,ナノサイズの領域において半導体ナノ構造を空間的に作り分けられることが明らかとなった。
発光や光電変換,光触媒反応を起こす半導体を金属ナノ構造内に適切に配置するこの手法により,ナノサイズの発光素子,エレクトロニクス素子,量子効果を用いた光演算素子,超高感度に光を検出する装置などへの応用が期待されるとしている。