浜松医科大学,東京工業高等専門学校,理化学研究所の研究グループは,ラングミュア・ブロジェット法(LB法)で作製した分子薄膜に球晶(spherulite)と呼ばれる秩序構造を実現した(ニュースリリース)。
有機分子の膜を用いて,トランジスター,発光ダイオード,太陽電池,バイオセンサーといった能動素子を作製できることが確認されており,生体分子を含む有機分子の機能を活かして次世代のエレクトロニクスを構成する,有機分子・バイオエレクトロニクスの研究分野が注目されている。
これに加えて,有機分子素材に,絶縁性,半導体性,金属性,超伝導性,というすべての電気伝導特性が実現しているため,原理的には,有機分子のみを用いて,環境負荷が小さく,軽量・フレキシブルなエレクトロニクスの構築が可能となっている。
さらに,これらの能動素子を構成する有機分子は,タンパク質や酵素といった生体分子と複合化も容易であるため,様々な生化学反応を電気信号に変換するバイオセンサーの作製も期待され,研究が進んでいる。
研究グループは,既に,LB法を用いて,細胞膜を構成するリン脂質を模倣して合成した人工分子(2C14N+Me2-Au(dmit)2塩)に基づく薄膜(ラングミュア・ブロジェット膜,LB膜)を開発し,40―80S/cm(室温)というLB膜として世界で最も高い電気伝導度を実現していた。
しかし,この膜の構造は「乱れ」を含み,この「乱れ」がさらなる電気伝導度の向上を妨げ,エレクトロニクスやバイオセンサーの部材として用いる際の不安定さにも繋がっていた。
今回,2C14N+Me2-Au(dmit)2塩のLB膜を,分子が熱分解しない比較的低い温度(80℃)で熱処理すると,球晶と呼ばれる秩序構造が形成することを見出した。
これまで,球晶は高分子(ひも状の長い分子)が規則的に折りたたまれて層構造(ラメラ構造)を形成し,この層構造が樹状に成長して球状となる構造が代表的で,LB膜については高分子に基づく膜にしか報告例がなかった。
現在,有機分子・バイオエレクトロニクスの分野では,手法が簡便で大量生産に適した塗布法・インクジェット法などのウェットプロセスが注目されているが,分子薄膜内の分子の配列秩序の向上が重要な課題と考えられているという。
この研究は,高分子素材を用いなくても,低分子素材に対して,細胞膜を構成するリン脂質と同様な2本の炭化水素鎖を導入すれば,分子の配列秩序の向上が期待できることを示すもの。
今後,2C14N+Me2-Au(dmit)2塩のLB膜の電気伝導度のさらなる向上が期待できるとしている。