天文学研究者で構成される国際研究グループのH0LiCOW(ホーリー・カウ)は,ハッブル宇宙望遠鏡とともにすばる望遠鏡など多くの地上望遠鏡を用いて重力レンズ効果の影響を受けたクエーサーからの光を観測し,宇宙の膨張率の値であるハッブル定数を従来の方法と独立に調べた(ニュースリリース)。
従来より,局所宇宙の観測から計算される宇宙の膨張率の値と,プランク衛星の宇宙背景放射の観測から計算される膨張率の値との間には矛盾があることが知られている。
研究グループは,6つの遠く離れたクエーサーからの光をハッブル宇宙望遠鏡で観測した。クエーサーは,銀河中心にある巨大ブラックホールを周回するガスから発せられる光で非常に明るい。
各クエーサーからの光は,手前にある巨大な楕円銀河によって引き起こされる強い重力レンズの効果によって,複数の画像に分割される。そして,重力レンズ効果の影響を受けたクエーサーからの光は,僅かに異なる経路を辿って地球に到達する。この各経路の違いを調べるために光のちらつきを調べた。こうすることで,分割された画像間で光が地球に到達するまでの時間の遅れを測定できる。
ただし,重力レンズ効果を起こす銀河は他の複数の銀河に囲まれており,それらが引き起こす影響を無視できない。研究グループはレンズ環境の影響を光のスペクトルまたは広い視野の複数フィルターを用いて測るが,特に,すばる望遠鏡のSuprime-CamとMOIRCSという可視光線と赤外線カメラが最適だったという。
これらの測定値と銀河の物質分布の正確なマップを使用して,手前の銀河からクエーサーまで,地球から銀河まで,そして地球から背景にあるクエーサーまでの距離を推定した。 そしてその値を,宇宙膨張に起因する光の伸び(赤方偏移)によって計算されるクエーサーと銀河までの距離と比較することで,宇宙の膨張率を測定した。
その結果,1Mpcあたり73km/秒というハッブル定数の値を導き出した(2.4%の不確定性)。これは,銀河が地球から約330万光年遠くなる毎に,宇宙膨張の影響により銀河が毎秒73km速く遠ざかって見えることを意味するという。
今回の測定は他の手法と完全に独立しているため,他で得られた結果をチェックする重要な値として機能する。今回の結果は予想よりも局所宇宙の膨張率が速いことを示唆しており,そのため宇宙に対する理解が何か間違っている可能性があり,この矛盾を説明する新物理が必要になるかもしれないとしている。