京都産業大学,JAXA,国立天文台,岡山理科大学の研究グループは,すばる望遠鏡の中間赤外線観測装置COMICSで観測された,ジャコビニ・ツィナー彗星の分析において,彗星に含まれるシリケイト(ケイ酸塩)鉱物特有の輝線バンドに加えて,彗星において未知の輝線バンドを検出した(ニュースリリース)。
彗星は,地球との衝突以外でも,流星という形で彗星に含まれる様々な物質を地球へ供給している。今回,10月りゅう座流星群の母天体であるジャコビニ・ツィナー彗星の中間赤外線スペクトル中に,彗星に含まれるシリケイト鉱物由来の輝線バンドに加えて,彗星において未知の輝線バンドを検出した。
この彗星は,これまでの観測から,多くの分子が欠乏し,可視光連続光成分の偏光度が負の傾きを持つことが報告されていた。分光学的分類でも全彗星の約6%しか存在しない,揮発性分子もダストも共に非常に特異な性質を持つ彗星であることが知られており,他の彗星とは異なる特殊な環境で形成された可能性が指摘されていたが,具体的な形成場所については議論が続いていた。
これらの輝線バンドは脂肪族炭化水素や多環芳香族炭化水素といった複雑な有機分子に起因する可能性が高く,同彗星に大量の有機物が含まれていることが明らかになった。こうした有機物は高温環境で形成されやすいことが知られている。一方で,彗星形成領域の指標となるシリケイト鉱物の結晶質の存在量比は彗星の平均的な値を示すことも分かった。
こうしたことから,この彗星は原始太陽系円盤の木星などの巨大惑星の周惑星円盤中という特殊な環境で作られた可能性があり,また彗星は原始太陽系円盤の様々な場所で形成されたことが明らかになってきた。
今回,ジャコビニ・ツィナー彗星から複雑な有機分子が検出されたが,他の彗星にも存在するのか,どういう分子構造なのか詳細を明らかにするには,更なる観測が必要となる。
こうした観測には赤外線が有効なのだが,地球の大気が邪魔をしてしまい,すばる望遠鏡のような口径8mの大望遠鏡でも,地上から観測できるのはごく限られた波長範囲になってしまう。地球大気の外,宇宙空間であればその制限がなくなるため,さらに多様な有機物の詳細な赤外線観測が可能となるという。
研究グループでは,宇宙からの赤外線高分散分光観測の実施を目指し,宇宙望遠鏡や探査機に搭載できる小型・赤外線高分散分光器の実現に必要な基盤技術(イマージョン回折格子,セラミック製光学系など)の開発を,関係企業との協働で進めていくとしている。