大阪大学の研究グループは,明るい場所でも暗い場所でも環境の変化に応じて適切に物体を見ることができる機能(明暗順応)の分子メカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。
視覚は,眼球の後ろにある膜状の神経組織の網膜が光を受容するところからスタートする。網膜で光を感知する細胞は視細胞と呼ばれる。視細胞には,暗い場所で働く桿体視細胞と明るい場所で働く錐体視細胞の2種類が存在している。
このうち,桿体視細胞は暗い場所では光に対する感度を上昇させ,一方で明るい場所では低下させることで,暗いところから明るいところまで適切に物を見ることができる。
光に対する感度を上げ下げする機能は,明暗順応と呼ばれ,視覚に重要な役割を果たしている。しかしながら,桿体視細胞が外界の光の強度に応じて光受容感度を制御する分子メカニズムは謎だった。
研究グループは今回,明暗に応じた網膜の桿体視細胞における光受容感度の制御(明暗順応)がKlhl18というユビキチン化酵素により制御されることを発見し,明暗順応の一連の機能メカニズムを解明した。
視細胞が光を感知することは,ものを見ることに必須だが,その反面,視細胞は光でダメージを受けることが知られている。太陽を直接見ると網膜が強く障害され失明につながりうるのは,その究極の例と言える。
通常の光でも,非常にゆっくりとではあるが視細胞がダメージを受けて老化が進んでいく。実際,光は視細胞が変性する病気である加齢黄斑変性や網膜色素変性症の進行リスクになることが知られている。
今回発見した明暗順応の仕組みを利用することによって,網膜視細胞の光に対する感度を下げることで視細胞を光による長期的なダメージや老化から守り,加齢黄斑変性や網膜色素変性症をはじめとする網膜変性疾患の治療薬(進行抑制薬,予防薬)の開発につながると期待されるという。
また,今回明らかになった仕組みは明所や色覚をつかさどる錐体視細胞には影響を与えないことから,正常な明所視力を保ったまま網膜変性疾患を抑制する薬剤開発につながることが期待されるとしている。