早稲田大学と伊Istituto Officina dei Materialiの研究グループは,これまで単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の成長に有効とされていたアルミナ(Al2O3)下地上の鉄(Fe)触媒にガドリニウム(Gd)を添加することで寿命が約3倍に伸びることを確認し,従来の性能を上回る触媒を開発した(ニュースリリース)。
SWCNTは炭素のみで構成され,軽量・強靭であり高い電気・熱伝導性をもつことから,様々な産業・医療分野での応用が期待されている。現在SWCNTを成長させるには化学気相成長(CVD)法が用いられることが多く,その際にナノ粒子触媒が必要となる。
基板上に触媒を担持し高密度にSWCNTを成長させる手法は長尺化が可能な手法として有力である。触媒としてはアルミナ(Al2O3)下地上の鉄(Fe)触媒が有効であるとされており,これを凌駕する触媒の組み合わせはおよそ15年間見つかっていなかった。また成長が途中で停止してしまうことは知られていたがそのメカニズムの理解と制御が重要な課題だった。
この研究ではSWCNTを成長させる触媒として,従来のFe/Al2O3を凌駕する触媒を開発することを目指し,比較的成長が容易な多層カーボンナノチューブの成長の際に有効とされていたガドリニウム(Gd)について調べた。その結果,Gdは触媒の寿命を最大で約3倍に伸ばす作用があることが分かった。
基板上に触媒をつけるスパッタ法に研究グループらが開発したオリジナルのコンビナトリアル手法を適用することで,Gdの膜厚がSWCNTの成長に与える影響を広範囲にスクリーニングした。その結果,Gdの最適膜厚は0.3nmという原子1層以下程度であることが分かり,膜厚が大きすぎるとSWCNTの成長が阻害されることが分かった。
これによりGdはAl2O3のように下地として機能しておらず,異なる役割があることが分かった。さらに大気中の酸素などによる影響を受けない特別なX線光電子分光法を用いることで,触媒の微細な化学結合状態の違いを検出しGdの役割を調べた。その結果,800℃で加熱し還元した際にGdがFeと結びつくことが観察され,これによってFeとCの相互作用が弱くなっていることが明らかになった。
今回,横方向の触媒構造の変化を抑制することができたが,CNTの成長停止を完全に防ぐことはできなかった。研究グループは,今後更なる触媒や成長手法を開発することで,より実用的な成長手法を開発していくことが課題だとしている。