産業技術総合研究所(産総研)は,ネイル製品卸のTATと共同で,溶剤を用いずに剥がせる塗料材の作製技術を開発した(ニュースリリース)。
装飾だけでなく,爪の保護効果も期待されるジェルネイルは,液状の光重合性組成物を爪に塗布し,光照射により重合・硬化させて塗膜を形成して,爪に強固に密着させる。
そのため,剥がす際に有機溶剤を大量に使用する必要があり,有機溶剤を極力使用せずにジェルネイルを除去できる技術の開発が望まれている。
産総研では,光に応答して構造や物性が変化する「液晶と樹脂の混合物」を用いて,光で損傷を修復できるゲルや,光で粘着性を制御できるフィルムの開発に取り組んできたが,これらの技術をジェルネイルに適用するには課題があった。
まず,従来の樹脂と液晶の混合物は柔らかく,ジェルネイルに用いるには硬さが足りなかった(硬さの指標である貯蔵弾性率が、約104Pa)。そこで今回、光重合性組成物を含む樹脂原料を用いて,光による重合・硬化(光硬化)の際に架橋構造を導入することで,硬さの向上を試みた。
樹脂原料と液晶の混合物を可視光(波長=405nm,照射時間=3分)の照射で光硬化すると貯蔵弾性率は,これまでの千倍(107Pa)程度まで向上させることができた。
さらに,従来の樹脂と液晶の混合物は,液晶成分としてアゾベンゼン系化合物を含有し橙色だったため,アゾベンゼン系とは異なる化合物を用いた新しい液晶成分を開発し,材料の無色化を進めた。
光学特性と熱物性を指標に,数十種類の液晶成分を検討した結果,無色透明の混合物を得ることに成功した。この混合物に近紫外光(波長=365nm,照射時間=10分)を照射すると,液晶成分の凝集構造が変化して樹脂と相分離して白濁化することを確認し,基材(アルミ)に対する混合物の密着性が,照射前の1/10まで低下した。
今回の技術で溶剤を用いずにジェルネイルを簡便に剥がせるプロセスは,まず,今回開発した混合物を基材とするジェルを爪に塗布する。そして可視光(波長=405nm)を照射して光硬化させる。
ジェルネイルを剥がす際は,近紫外光(波長=365nm)を照射して相分離を誘起し,ジェルネイルと爪の密着性を低下させて剥がす。なお,これらの可視光と近紫外光は,既にジェルネイルの施術で広く使用されており,既存のライトが使用できる。
今回の技術の進展によって,溶剤を全く使用しない施術が可能となり,ジェルネイル利用者とネイリストの健康と安全の向上が大きく期待できるとして,研究グループは今後,材料メーカーとの連携を進め,数年以内の実用化を目指すとしている。