北海道大学の研究グループは,真空中で極低温の純氷を作製し,そこへ紫外線と電子を照射することで氷中にマイナスの電気が流れることを発見し,その電流は紫外線のオン・オフで鋭敏にコントロールできることがわかった(ニュースリリース)。
氷の内部には,もともと微量に存在する動き回れる陽子(プラスに帯電)が水分子の間を移動することにより,わずかながらプラスの電気が流れる,半導体としての性質を持つことが知られている。しかし,陽子の移動には熱エネルギーが必要なため,およそマイナス80℃以下では電気が流れないことがわかっている。
そこで研究グループはこの現象を説明するため,超高真空中に設置した,ニッケルを蒸着したサファイアガラスをマイナス220℃程度に冷却し,そこへ超純水の水蒸気を吹き付け,ニッケル表面に純氷薄膜を作製した。その表面に電子を入射しながら紫外線を照射し,ニッケル表面に流れ込むマイナスの電流を測定した。また,氷中にマイナスの電気が流れる様子を最新の量子化学計算でシミュレートした。
氷表面に電子を供給しながら紫外線を照射すると,照射と同時に氷中にマイナスの電気が流れることが観測された。その流れは紫外線のオン・オフでコントロールすることができる。この手法のポイントは氷表面に電子を供給しながら紫外線を照射するところにある。電子だけ,もしくは紫外線だけでは電気は流れない。
量子化学計算によれば,紫外線により氷表面のH2O分子が分解しOHとなり,そのOHが氷表面の電子を捕らえOHマイナスイオンとなり,そのイオンが氷中にマイナスの電気を運び込むキャリアになることがわかった。
今回の研究は,氷中にマイナスの電気が定常的に流れうることを示した初めてのもので,その流れが極低温下でも維持され,紫外線によってコントロールされうるという,これまで全く想像されていなかった現象を見出した画期的なものという。
研究グループは,氷微粒子上で生じる電気的なプロセスは,気象や新たな分子の生成に深く関与しているため,今回の研究が氷の基礎科学だけでなく,広く地球惑星科学,天文学に新しい展開を与えるきっかけになるとしている。