九州大学は,スイス欧州原子核研究機構(CERN)のLHC実験で探索中の超対称粒子の質量が持つ新しい性質を発見した(ニュースリリース)。
現在,実験的に検証されている最も基本的な素粒子理論は標準模型だが,宇宙の暗黒物質の存在など説明できない現象があり,さらに基本的な理論があると予想されている。その中でも超対称理論が有力とされている。
超対称理論では,標準模型のすべての素粒子に対しペアとなる新しい素粒子「超対称粒子」が予言されている。超対称粒子の質量は「超対称性の破れ」によって生じる。
研究グループは量子重力理論の候補である超弦理論が示唆する「モジュライ媒介」と呼ばれる超対称性の破れを詳しく調べた。そして超対称粒子の質量にこれまで存在すると考えられていた,重い素粒子からの量子力学的な補正がある条件のもとで消えることを発見した。
例えばニュートリノの小さな質量を説明するシーソー機構では,重い右巻きニュートリノが予言されていた。この右巻きニュートリノは,ミューオンや電子の超対称ペアの質量に量子力学的な補正を与え,これにより理論の広い領域で実験の制限を超えるミューオン電子転換過程が生じると予言されていた。
新しい性質が成り立てば,こうした過程は抑制され,ある種の大統一理論に基づく模型などすでに棄却されていた模型が生き返り,今後の実験的探索の対象になるという。研究グループは,この新しい性質は,他にもこれまで知られていた超対称理論のさまざまな予言に影響を及ぼす可能性があるとしている。