理研ら,面分光で水素ガスの大規模構造を発見

理化学研究所(理研),英ダラム大学,国立天文台,名古屋大学の研究グループは,地球から115億光年離れた宇宙において,銀河と銀河をつなぐように帯状に広がった「宇宙網」と呼ばれる水素ガスの大規模構造を初めて発見した(ニュースリリース)。

宇宙網の観測は,銀河形成モデルを検証し,過去の宇宙における銀河と巨大ブラックホールの形成,進化を解明する上で欠かすことができないが,宇宙網が放つ光は非常に弱かったため,観測することは困難を極めていた。

研究グループは,みずがめ座の方向,地球から115億光年離れたSSA22原始銀河団に注目し,宇宙網の検出に挑んだ。この領域は,これまでにも活発に星を生み出している銀河や成長を続ける巨大ブラックホールの存在が知られ,その周囲に宇宙網が存在しているかどうかが大きな関心事となっていた。

今回の研究ではまず,活発な銀河や巨大ブラックホールがどれだけ,どのように分布しているのかを示す銀河と巨大ブラックホールの地図の作成を行なった。アルマ望遠鏡のミリ波の観測により,星から暖められた塵を捉えることで活発に星を生み出している銀河を見つけることができる。

さらにX線による巨大ブラックホールの探査を行ない,また見つけた天体までの距離を決定する分光観測をミリ波や赤外線で行なった。その結果,400万光年ほどの範囲に,18個の活発な銀河や巨大ブラックホールが密集して存在していることが明らかになった。

一方,宇宙網の主な成分である水素ガスは銀河や巨大ブラックホールからの光を受けて,紫外線の波長域で発光することが知られている。遠方宇宙からの光は宇宙膨張によって波長が長くなり,可視光でこの光を観測することができる。

そこで,これまでに得られていたすばる望遠鏡の広視野カメラ・シュプリーム・カムで撮像された画像に対する解析の結果,銀河や巨大ブラックホールをつなぐように,広がった水素ガスの光がおぼろげながら見えてきたという。

この光をさらに詳しく調べるため,VLT望遠鏡による追観測を行なった。VLT望遠鏡に搭載されたMUSEという観測装置を使うことで,2次元の画像だけでなく,スペクトルを含む3次元の情報を一気に得ること(面分光)ができる。その結果,水素ガスの大規模な帯状の構造が存在することを初めて確かめた。

このようにさまざまな観測を組み合わせることで,星形成の活発な銀河,巨大ブラックホール,宇宙網を網羅した3次元地図を描き出すことができた。

研究グループは,この結果は宇宙網に沿ってガスが銀河や巨大ブラックホールに流れ込み,そのガスを材料として銀河や巨大ブラックホールが成長するという理論・シミュレーションによる予測を観測の面から支持するもので,また,数多くの銀河や巨大ブラックホールに由来する光によって,宇宙網が明るく照らされていたことが,今回の検出につながったとしている。

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