東京大学と京都大学の研究グループは,鉄系超伝導体「FeSe」について,高次高調波レーザー時間・角度分解光電子分光装置を用いて非平衡状態における電子構造を直接観測し,超短パルスレーザーを照射することで超伝導状態(光誘起超伝導)が生じることを発見した(ニュースリリース)。
最近,銅酸化物高温超伝導体において,転移温度よりも高い温度で,光照射によって超伝導状態が実現することが報告されており,世界中から注目を集めている。しかし,光照射により作り出される超伝導(光誘起超伝導)の報告例はほとんど銅酸化物に限られ,さらに電子構造の直接観察のような直接証拠と呼べるものがなかった。
研究グループは,圧力や元素置換により転移温度が顕著に変わる鉄系超伝導FeSeを測定試料として選び,高次高調波レーザー時間・角度分解光電子分光装置を用いて,光照射後の非平衡状態における電子構造の直接観測を行なった。今回,ポンプ光により非平衡状態にした後,プローブ光によりそれを観測するという手法を用いた。
絶縁体,金属,超伝導などの物質の性質は原子の並び方で決まり,原子間の距離が少し変わるだけで性質が大きく変わることがある。研究グループは,FeSeに光を照射することで,わずかにFeとSeの間の距離を変え,金属状態から超伝導状態へと変えることに成功した。
通常この物質は転移温度10Kで超伝導状態となるが,今回の研究では転移温度以上の15Kで超伝導状態を確認した。
さらに,この超伝導状態の継続時間を調べるため,電子の性質を決めるバンド構造を調べた。FeSeは,電子と正孔の2種類のバンドからなり,光を照射することでそれぞれのシフトしていることと,超伝導状態が800ピコ秒間実現していることがわかった。
これは,銅酸化物よりも10倍以上長いという,超伝導において好ましい特長だという。さらに,このバンド構造の直接観測から超伝導の特徴である超伝導ギャップを発見した。
研究グループは今回の研究により,光誘起超伝導を用いたコンピューターなどの加速的な開発のほか,太陽電池に組み込むことで,太陽光で照射された半導体から得られる電気を,同様に太陽光が照射されて超伝導となった送電線で運ぶことで,電力コストを大幅に下げることが可能としている。