慶大ら,光子を2倍の励起子に変換

慶應義塾大学と神戸大学の研究グループは,独自に開発したテトラセンアルカンチオール修飾金ナノクラスターに光を照射すると,テトラセン分子に吸収された光子数に対して2倍の励起子へ変換でき,この生成した励起子は従来の金表面上の有機分子と比べて10,000倍程度の長い寿命があることを明らかにした(ニュースリリース)。

有機(材料)分子の光機能化に関する取り組みが盛んだが,例えば太陽電池等のような有機分子の集合状態が光の照射によって得られるエネルギーは,孤立状態(単量体)と比較して大幅かつ迅速に失うことが知られている。

また,金属の表面に修飾した有機分子が光の照射によって得られたエネルギーは,金属の表面に迅速かつ強く失われる。このように,「有機分子の集合化」や「有機分子と金属材料の複合化」において光の照射によって得られたエネルギーの大幅な損失は避けられない現象として考えられてきた。

そこで研究グループは,近接的に配置された二つの分子で,一方の分子への光子の吸収した後にもう一方の分子と相互作用することで二つの励起子を生成する一重項分裂という光反応に着目。上述の問題点全てを一挙に解決することを目的として,ベンゼン環が4つ直線上に繋がった化学構造をもつテトラセンを自己組織化単分子膜法により金属ナノクラスターに修飾することを検討した。

その結果,金属表面上で一重項分裂が効率よく進行する(かつ逆反応を抑える)ための最適な距離や配向を持つ二分子の配置を金ナノクラスター表面上でつくることに成功した。

一重項分裂の反応評価を行なったところ,光照射によって得られた高いエネルギー状態(励起状態)を約10,000倍程度長寿命化(10–5秒の寿命)できた。また,一重項分裂の量子収率90%(最大値:100%)だけでなく,長寿命の励起子の生成に伴う一重項酸素の発生効率は溶存酸素条件下で160%(最大値:200%)まで向上させることに成功した。

この研究によって,有機分子が化学修飾した金ナノクラスターで高効率かつ長寿命な三重項励起子を生成できることを明らかにし,実際に一重項酸素の発生効率は100%をはるかに超える160%まで向上させることに成功した。

このことは太陽光を効率的に電気エネルギーや化学エネルギー(水素発生など)に変換できる光エネルギー変換だけでなく,一重項酸素を用いた有機合成や医療展開(光線力学療法),生体材料評価など様々な展開が期待できるとしている。

その他関連ニュース

  • 公大,効率化したフローとAIで新規有機半導体を合成 2024年10月01日
  • 阪大ら,分子設計で有機太陽電池の性能向上に成功 2024年09月12日
  • 阪大ら,緑色光を発電に用いる有機太陽電池を開発 2024年08月29日
  • 名大,金・白金含む王冠状金属ナノ集合体を精密合成 2024年08月27日
  • 阪大ら,有機半導体の励起子束縛エネルギーを低減 2024年08月19日
  • 東大ら,有機半導体の電子ドーピング技術を独自開発 2024年05月23日
  • 東大ら,交互積層型の電荷移動錯体の高伝導化に成功 2024年04月17日
  • 理研ら,全塗布で3層構造の有機光電子デバイス集積 2024年04月11日