藤田医科大学とスウェーデンのルンド大学の研究グループは,昆虫の化石の眼の研究から,カンブリア紀に繁栄した三葉虫などの節足動物の複眼の構造と化学的組成について新規の知見を発表した(ニュースリリース)。
昆虫や甲殻類のような節足動物の複眼は,遅くとも5億2千年前には出現した。そのため化石の複眼の研究は,節足動物における視覚の解明をもたらすと考えられる。
今回研究グループは,デンマークで発掘された5400万年前の昆虫ガガンボの化石の眼の化学組成と微細構造を調べ,それを現生のガガンボの眼と比較することにより,化石化の過程が複眼の構造に及ぼす影響を調べた。その結果,ユーメラニンの存在を証明した。ユーメラニンは,化石のみならず現生の動物においても光受容体を光から保護する遮蔽色素として働いている。
化石の複眼のレンズ構造は石灰化されているが,眼を保護し,視覚に関わるキチンという物質がカルシウムに置き換ったことによると,研究グループは示唆している。
従来の研究では,絶滅した節足動物において石灰化は生存中に起こったものと解釈されていたが,研究グループはこのような無機化は視覚を損ねてしまうので,カルシウムの沈着は化石化の過程で二次的に生じたものと考えている。この発見は,最古の節足動物である三葉虫の眼の石灰化についての長年にわたる仮説の再検討を要するとしている。