北見工業大学,物質・材料研究機構,東京医科歯科大学の研究グループは,新しいタイプの異方性セラミックスの透明化と,そのレーザー発振の実証に成功した(ニュースリリース)。
透光性セラミックスは光分野全般において重要な役割を果たしてきたが,その母材は立方晶系材料に限定されており,非立方晶系材料は単結晶のみが利用されている。サファイア(Al2O3)等のように多くの光学材料は非立方晶系で,今後の光技術の進展には,この制限を取り除くことができるような新材料の開発が重要となる。
一般的に,多数の結晶粒で構成される多結晶セラミックスにおいて,レーザー品質の光学特性を得ることは困難とされている。立方晶系材料の場合,粉体の焼結過程において,残留気孔,欠陥,不純物等の多くの散乱源をなくす必要がある。さらに非立方晶系材料の場合は,結晶方位に対して屈折率が異なるため(複屈折),粒界散乱の影響を強く受けてしまう。
今回研究グループは,結晶粒径をレーザー波長の約10分の1まで低減することにより,結晶方位がランダムであっても粒界散乱(Mie散乱)が極めて小さい異方性透明セラミックス(Nd添加フルオロアパタイト:六方晶系)を開発した。
材料には,生体材料としても研究が多数行なわれているフッ化アパタイトを選択した。最初に,透光性セラミックスを得るために理想的な初期粉体の液相合成を行ない,粒子径50nmの球状粒子を合成した。
次に,得られた粉体を焼結し緻密透明化を行なった。高温では緻密化が容易だが,粒径が大きくなる問題がある一方,低温では緻密化が難しくなる。今回,通電効果によって比較的低温で緻密化が可能な放電プラズマ焼結法を用いることで,焼結挙動を高度に制御することによって平均粒径140nmの微細組織で,散乱源の極めて少ないセラミックスを作製することに成功した。
その後,結晶方位がランダムな非立方晶セラミックスでは世界で初となるレーザー発振に成功し,レーザー発振出力やスペクトルの評価を行なった。研究グループは今回の研究により,今後多くの新しい光材料開発が期待でき,さらに加工産業,医療,計測など幅広い光技術応用に役立つとしている。