東北大学,アメリカ国立標準技術研究所(NIST),スイス パウル・シェラー研究所(PSI),スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL),理化学研究所,東京大学の研究グループは,カイラル磁性体MnSiで形成される磁気スキルミオンは駆動中も格子構造を保つこと,さらに試料端付近に生じる摩擦力的な機構により塑性変形を起こすことを観測した(ニュースリリース)。
渦などに代表される位相幾何学的な欠陥は,古くから研究が行なわれている。近年では位相幾何学的な欠陥の一種である磁気スキルミオンが三角格子を形成して存在することが明らかにされた。磁気スキルミオンは電流と強く結合することが予想されており,過去の研究から,磁気スキルミオンが僅かな電流密度により駆動できることが知られている。
これは,省エネルギースピントロニクスデバイス実現に向けて極めて有利だが,過去の研究では電流印加状態での磁気スキルミオン流動挙動は解明されておらず,微視的な実験手段による磁気スキルミオン流動挙動の解明が望まれていた。
研究グループは,磁気スキルミオンが安定的に存在する相を持つカイラル磁性体MnSiに電流を印加し,電流駆動状態での磁気スキルミオンの微視的挙動を中性子小角散乱手法を用いて詳細に調べた。
その結果,磁気スキルミオンは106A/m2の電流密度を印加すると三角格子を保ったまま流れはじめることが観測された。また,試料の端付近では磁気スキルミオン格子が塑性変形を起こしながら流れていることが明らかになった。
これらの結果は,これまで微視的な観測手段で明らかにされてこなかった位相幾何学的欠陥の流動挙動を初めて明らかにしたもの。さらに,磁気スキルミオンの流動において試料端の影響がバルクを支配しているという情報は,磁気スキルミオンを使ったレーストラックメモリーなど省エネルギー情報伝達デバイス実現に重要としている。