学習院大学,産業技術総合研究所,電気通信大学,日本大学の研究グループは,極低温原子集団から原子が選択的に失われるときに,量子状態の位相が揃い,強磁性状態が形成される現象を発見した(ニュースリリース)。
近年,量子技術に対する期待が高まっているが,その実用化には技術的な課題を解決する必要があるとされている。その一つが量子状態の位相を保つことだという。
量子状態の位相は通常とても乱れやすく,磁場の変化や周囲の環境との接触や結合による粒子やエネルギーの出入りによっても,量子状態の位相は容易に乱れ量子現象の観測や量子計算ができなくなる。
一方,レーザー光の量子状態は,通信路に損失があっても純粋なままに保たれる。このことは,異なる光子数の状態間の位相が損失によって保たれることを意味している。レーザー光の量子状態がこのような性質を持つことは,レーザー光を用いた長距離光通信を可能にしているだけでなく,光が量子状態を遠方に送る唯一無二の媒体となっている理由でもある。
さらに,外部環境の影響がより強い生態系においても,近年量子効果が重要な役割を担っている可能性が示唆されている。例えば,光合成の効率的なエネルギー輸送や渡り鳥の磁気探知において,量子効果が有益な影響をもたらしている可能性が示唆されている。
研究グループは,ボース・アインシュタイン凝縮した極低温ルビジウム原子集団を用いて,散逸のある量子系で磁化がどのように時間発展していくかを詳細に観測した。
この系における散逸は,原子スピンの状態に依存して,原子が閉じ込め領域から失われるという特徴があり,選択的な損失となる。また,損失がないとき,原子スピン間の相互作用は,磁化しない状態に対して相互作用のエネルギーが最小であるという特徴を持つ。これは,この量子系が通常は自発的に磁化しないことを表している。
しかしながら,研究グループは,磁化のない状態に準備した極低温原子集団が,選択的な損失が本質的な役割を果たすことにより,自発的な対称性の破れを伴って強磁性状態へと自発的に発展することを見つけた。
この選択的な原子の損失は,この量子系に元々内在する自然な散逸現象である。たとえ量子系に散逸があっても,その散逸に構造があれば,むしろ散逸により量子状態の位相が揃うことを物質系で明確に示している。
研究の成果は,量子技術を日常化するためのヒントとなる新しい原理を提示するものであり,さらに,生体内の複雑な量子現象の解明などに繋がると期待できるとしている。研究グループは,今後,量子技術を用いた精密磁場計測などへの応用可能性を探索する予定だという。