静岡大学は,シリコン・トランジスタの界面欠陥を高精度で観測する技術を確立した(ニュースリリース)。
トランジスタの性能は界面近傍に存在する欠陥により大きく劣化するため,界面欠陥を高精度で観測する評価手法が必要とされていた。界面欠陥を評価する手法としてはチャージポンピング法が古くから知られ,現在でも主たる評価手法となっている。しかしこの手法では界面欠陥内に存在する電子の状態の詳細を観測することが困難なため,界面欠陥の構造の同定には至っていなかった。
一方近年,量子情報処理技術の分野においてシリコン・トランジスタ界面の欠陥は,単なる「欠陥」ではなく,電子スピンを制御するための「構造体」であるという認識が高まっており,このため欠陥の構造とそこに存在する電子スピンの状態を調べる手法の確立が期待されていた。
研究グループが今回確立した技術は,トランジスタ界面欠陥評価手法であるチャージポンピング法と電子スピン共鳴法とを融合するもの。チャージポンピング法において必要となるトランジスタゲートへの高周波電圧印加と,スピン共鳴法で必要となるマイクロ波印加を同時に行ない,その際に発生する再結合電流を,静磁場を掃引しながら計測し,静磁場変化に伴う電流の微小変化を読み取る。
通常,マイクロ波を印加するとトランジスタ電流に大きな電流雑音が重畳されてしまうため,電流の微小変化の観測は困難とされていたが,今回の手法では,チャージポンピング法により発生するポンプ電流が極めて雑音耐性に強いという性質を利用し,この困難を回避することに成功している。
このため,マイクロ波照射を汎用の電子スピン共鳴装置を用いて行なうことができ,極めて汎用性の高い手法となっているという。さらに,10K(ケルビン)から300K(室温)の広範な温度領域で低雑音系を実現した。これにより,界面欠陥の電子スピンの状態を高精度で観測することが可能になり,トランジスタの性能劣化の原因となる界面欠陥の構造を同定することに成功した。
研究グループは今回確立した技術は,トランジスタの信頼性評価,ならびに量子情報処理における電子スピン制御の分野において,新たな分析手法となることが期待できるとしている。