九大病院,網膜色素変性の遺伝子治療を実施

九州大学病院は網膜色素変性に対する遺伝子治療の医師主導治験における被験者への治験製品(遺伝子導入ベクター)の投与を,2019年6月4日に初めて実施した(ニュースリリース)。

網膜色素変性は,網膜に存在する光を感じる細胞(視細胞)が徐々に失われていく遺伝性の病気。約5千人に1人の頻度で見られ,青年期より発症し,やがて失明に至る可能性がある。すでに50種類以上の遺伝子異常が原因として明らかになっているが,現状は有効な治療法がなく,厚生労働省から難病と指定され公費負担の対象となっている。

今回の治験では,遺伝子治療を応用した。ベクターという運び屋を使い治療するための遺伝子を投与する方法で,今回は神経栄養因子であるヒト色素上皮由来因子(hPEDF)の遺伝子を搭載したサル由来レンチウイルス(SIV)ベクター(SIV-hPEDF:開発コード「DVC1-0401」)を患者の目に注射した。

神経栄養因子という蛋白質は神経細胞を保護する作用があるため,この蛋白質が目の中で産生されることによって,視細胞の喪失を防ぎ,視力の悪化を防ぐことが期待できる。眼科における遺伝子治療の治験は今回の治験が国内では初めての試みという。

今回の治験の目的は,治験製品である「DVC1-0401」の網膜下投与の安全性を検討し,視機能障害の進行抑制効果を評価すること。治験実施計画書(プロトコル)では,まず第1ステージとして4名の被験者に低用量の治験製品を投与し,2019年6月4日に第1症例目となる女性に「DVC1-0401」を投与した。被験者は6月12日に既に退院し,今後は外来にて経過観察していく予定。

九大病院は今回の治験で安全性と有効性が確認され,治療薬としての開発に繋がれば,患者の失明防止に向けた大きな一歩になるとし,また,IDファーマの開発した国産遺伝子導入ベクターの「DVC1-0401」が保険医療分野に果たす役割は大きいとしている。

今後は,第1ステージ4名において治験製品に関連した重篤な副作用の有無などの安全性を検証しながら,第2ステージで4名の被験者に中用量の治験製品を,最終的には第3ステージで4名の被験者に高用量の治験製品を投与する。実際の治験の進捗状況については,九州大学病院眼科ホームページにて随時公表を予定している。

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