量子科学技術研究開発機構(量研)は,群馬大学,早稲田大学,筑波大学,物質・材料研究機構との共同研究により,窒素・空孔(NV)センターを集積し,世界で初めてNVセンターの電子スピンのみから成る3量子ビット化に成功した(ニュースリリース)。
室温で使える超並列計算可能な量子コンピュータや超高感度な量子センサーの実現には,室温で動作するNVセンター同士の相互作用を用いる多量子ビットが不可欠。しかしNVセンター同士の相互作用を用いる多量子ビットは,10年近く2量子ビットに留まっていた。
ダイヤモンドの全く同じ場所に3つ以上の窒素を注入できれば3量子ビット以上を実現できる。研究グループはこれを達成するため,複数の窒素を含む有機化合物イオンビーム注入法を開発した。
今回の研究では,核酸の主要な塩基として知られる有機化合物アデニンをなるべく分解させずに4個以上の窒素原子を含む有機化合物イオンとしてイオン源から引き出す条件を見出すことに成功した。アデニンは、炭素(C)を5個、窒素(N)を5個、水素(H)を5個含んでいる。
さらに,セシウムイオンとの衝突を用いないイオン源も新たに開発した。磁場型質量分析器を用いて分子の種類を調べ,アデニンから分解したCやNに混じって有機化合物イオンの存在が確認できた。今回は有機化合物イオン(C5N4Hn)を使用した。
65keVに加速したC5N4Hnイオンを108/cm2の面密度でダイヤモンドに注入し,1000℃で2時間の熱処理を行なった。熱処理後に共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡(CFM)を用いて蛍光像を観察したところ,3つのNVセンターが含まれているスポットを確認した。
これがNV-NV-NVの3量子ビットであるためには,3組のNVペアーの内,少なくとも2つのNVペアーでNVセンター同士の距離が数~十数nm以内でなければらない。3つのNVセンター間の相互作用の強さと距離を電子電子二重共鳴(DEER)で調べたところ,NVセンター同士はおよそ20nm以下の範囲に形成され,量子もつれ状態を作り出し得る条件を満たしていることがわかった。
研究グループは,今回の技術を用いれば,ハイブリッド量子レジスタの規模拡大に寄与でき,量子センサーの高感度化にもつながるとし,さらに光子を用いて量子レジスターを結合する拡張方式と今回の研究を融合させれば,将来の量子ネットワークのノードとしての役割が期待できるとしている。