東京工業大学研究グループは,シンプルながら万能な「カオス信号」を生成する手法を発見した(ニュースリリース)。
カオス信号は多様な局面に存在しているが,目的通りの特性を示すカオス信号の生成は難しく,デジタル信号を生成すると消費電力が多すぎる場合もあり,アナログ回路を用いる必要がある。
そこで研究グループは,カオス信号を生成する集積回路の作成するため,まず異なる素数を用いてサイクル数を設定すると,位相の関係を固定することができないという考えから手法を提案した。この原則はいくつかのセミの種類の進化に見られており,それらのセミのライフサイクル年数は他の種や天敵の年数と同期しないような素数の間隔になっていることが知られている。
この現象は互いに接続された3つの発振器の振動サイクルを小さい順に3つの素数(3,5,7)に設定すると,複雑なカオス信号が生成されることでも見ることができる。
この回路設計は集積回路の中でも最も古典的な「リング型発振器」から始めた。このリング型発振器は小型でコンデンサーやインダクターなどの受動素子を必要としない。この回路を3,5,7のサイクルをそれぞれ持つ3つのリング型発振器の強度が互いの接続強度によって独立して制御できるようにした。
その結果,可聴周波数からラジオ波帯域(1kHz~10MHz)という幅広い周波数スペクトラムでカオス信号を生成することができた。また,カオス信号が100万分の1ワット以下のような低い消費電力で生成できる見通しがあるという。
さらに,研究グループは個々の試作のわずかな特性の違いによって異なるタイプの信号が生成されることを発見した。ある時には生物の神経細胞で見られるのと類似したスパイク信号が記録され,またあるときは,それぞれのリング型発振器が互いに競い,ほぼ完全に活動を抑制するような現象も見られた。この抑制現象は「oscillation death:発振停止」と呼ばれる。
研究グループは今後,この回路をセンサーなどと組み合わせて,例えば土壌の化学特性の測定などに応用していく計画や,生物の神経細胞回路を模して互いにこの回路を接続させてコンピューターチップに搭載する計画もあるとし,これによりこれまでのコンピューターよりも大幅に消費電力を低下できる可能性があるとしている。