東北大ら,不規則なガラス構造に潜む規則性を発見

著者: umemura maika

東北大学と早稲田大学は,シリコンと酸素だけからなるシリカガラス(石英ガラス)のネットワークに内在するリング構造に着目して,真円度および粗さという新たな指標を開発し,リング構造の3次元的な定量化に成功した(ニュースリリース)。

ガラスは,窓ガラスやディスプレーのように現在の日常生活に欠かせない基盤材料である一方,その原子配置が一見無秩序で複雑なために,構造の理解や制御が難しく,合理的な機能材料設計には多くの課題が残されている。

研究グループは,材料中の化学結合ネットワークに内在するリング構造の規則性の3次元的な定量評価を行なった。今回の研究では,真円度や粗さという指標を新たに定義することによってリング形状の定量評価法を実現した。

この技術を,窓ガラスなどに用いられるシリカ(SiO2)のガラス,および,SiO2組成を有する複数の結晶の構造解析に応用し,ガラスおよび結晶に含まれるリングの代表的な特徴を網羅的に解析した。

シリカには他の化学組成の材料では見られないほど多様な結晶構造が存在するが,今回の解析によって,ガラス中には数種のシリカ結晶に類似した構造が存在する一方,ガラス特有の形状を有するリング構造も数多く存在していることを新たに明らかにした。

この新たな知見はリング形状の定量評価技術によって初めて得られたものであり,ガラス化および結晶化のような状態転移を理解するために重要な結果といえるという。

今回の研究では,さらに,リングの向きを自動決定する計算法を開発し,その手法に基づきリング周辺の原子の存在確率を計算する技術を開発した。この技術を用いたガラスの構造解析によって,ガラス構造の規則を理解する上で大事な2つの知見を得た。

1番目の知見は,ガラス構造においても,結晶構造と同様な異方性が存在すること。マクロレベルのスケールでは,ガラスは等方的と考えられているが,異方性を持つ局所構造の秩序を,リング構造の方位を揃えて原子分布を可視化することで,その特徴を初めて定量的に明らかにした。

2番目の知見は,ガラスに含まれる規則正しいリングの周辺には,結晶に似た規則正しい構造秩序が形成されていること。ガラスにおいては,前述のように,化学結合長を超えた距離スケールでの構造の規則性が放射光施設などにおける計測によって確認されている。

例えば,ガラスの回折実験で観測される特徴的な鋭いピーク(FSDP)は,ガラスにおいて,化学結合長を超えたスケールでの構造秩序が存在する証拠となる。

研究グループは,新開発の材料構造の定量評価技術は,ガラス材料の物性発現の解明,さらに,データ駆動型の高性能材料探索への寄与が期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東大ら,単一元素金属がガラス化する仕組みを解明

    東京大学と中国松山湖材料実験室の研究グループは,単一元素(金属)がガラス化するメカニズムを大規模シミュレーションにより解明した(ニュースリリース)。 金属ガラスは,結晶性金属にはない高強度や耐食性,優れた加工性などの特性 […]

    2025.09.12
  • 島根大ら,放射光で金属ガラス若返り現象を観測

    島根大学,広島大学,弘前大学,高エネルギー加速器研究機構,東北大学は,金属ガラスに液体窒素温度と室温の間を繰り返して上下させる「極低温若返り効果」を起こすことで電子状態が変化することを,放射光を用いた実験で明らかにした( […]

    2025.09.11
  • 三重大ら,原発瓦礫のセシウムをレーザーでガラス化

    三重大学,海洋研究開発機構,太平洋コンサルタント,帝塚山大学,東電設計は,レーザーを援用したその場固定化により,コンクリート中にセシウム (Cs)を閉じ込めてガラス体を形成することに成功した(ニュースリリース)。 福島第 […]

    2025.04.21
  • 筑波大ら,THz帯を透過するガラス材料設計に知見

    筑波大学,東京科学大学,大阪大学,東京大学,立命館大学,京都大学は,ガラスにあるわずかな原子の周期構造(見えない秩序)が,ガラスの物性に影響を及ぼすテラヘルツ帯の揺らぎ(振動特性)を決定する重要な要因であることを明らかに […]

    2025.04.15
  • 技科大,レーザー造形技術で次世代の電池を開発

    長岡技術科学大学の研究グループは,レーザー誘起局所加熱による溶融凝固によってイオン伝導する界面形成に成功した(ニュースリリース)。 全固体電池は高いエネルギー密度と,極めて高い安全性を実現できる次世代蓄電デバイスとして研 […]

    2025.04.08
  • 阪大,ガラスの「秩序変数」を新しい理論で説明

    大阪大学の研究グループは,ガラスの「秩序変数」を新しい理論で説明し,固体における「秩序」の本性を解明した(ニュースリリース)。 「秩序変数」とは,固体・液体・気体など,物質の「相」を区別するための指標の一つで,これを考察 […]

    2025.03.28
  • 東北大ら,光ファイバー製造に必要な最適圧力を確認 

    東北大学,高輝度光科学研究センター,島根大学は,光の透過性を高めるため,シリカガラスの透明度向上に必要な圧力が予測値の約5分の1で済むことを,初めて実験で実証した(ニュースリリース)。 情報伝達の要となるのが光通信ファイ […]

    2025.02.25
  • 東大ら,ソフトジャム固体とガラスの繋がりを発見

    東京大学と九州大学は,ソフトジャム固体の粘弾性を理解することに成功した(ニュースリリース)。 我々の身の回りには,マヨネーズや泡沫など,固体とも液体ともつかない物質がたくさんある。これらの物質の共通点は,柔らかい球状粒子 […]

    2025.01.16
  • オプトキャリア