LiDAR開発のスタートアップ,独Blickfeldは5月21日都内にて,駆動機構を持たないソリッドステートタイプである,MEMS LiDARの説明会を行なった。
現在,LiDARに搭載するレーザーの波長には主に905nmと1550nmが使われているが,同じ赤外域でも1550nmの方がアイセーフにおいて有利となる。そのためハイパワー化がしやすく,ロングレンジを求める多くのメーカーが採用に動いている。しかし一方で,高出力のファイバーレーザーやInGaAsの受光器が必要で,構造が複雑になる1550nmを用いると,低コスト化が難しいという問題がある。
同社はコンセプトである安価かつ小型を実現するため,あえて905nmの低価格(1ドル以下)のLDを用いることでコストを下げようとしている。ハイパワー化は難しいが,同社では独自の大口径シリコンMEMSミラーによって,1つでも多くの光子を拾うとともに,点群データを高精度に再構築するソフトウェアにより,ロングレンジの検出を可能にしようとしている。
具体的には,LiDARを出射したときに1012個ある光子も,100m先の物体に反射してディテクタに戻ってくるのは1~5個程度となる。これを確実に捉えるため,同社は直径約12mm,面積108mm2の大型MEMSミラーを開発した。これは従来の一般的な大型MEMSミラーの5.4mm2に対して20倍となる。同社はこのミラーを2枚用いるシンプルな構造で高感度を達成した。
ミラー径を大きくすることで外乱光によるノイズも増えるが,同社では空間フィルタリング(ビームを出射した方向だけからの光子を捉える),波長フィルタリング,S/N比を高めるデジタル信号処理の3つの技術によって対策を施している。
こうした技術により,ショートレンジモデルのパッケージサイズは80×60×50mm(ロングレンジモデル80×60×70mm)と小型ながら,測定距離80m(反射率10%,ロングレンジモデル185m)を達成している。画角はショートレンジモデルが100×30°,ロングレンジモデルが20×10°となっている。
現在の仕様は開発品のものであり,条件が整えば250m先も見えるとして,実際に高速道路を走行しながら自車からその距離に位置する橋梁を検出するデモが画面が紹介された。
1秒あたりのスキャンライン数は600本だが,例えば60ラインで10Hzで動作させたり,30ラインで20Hzで動作させたりするなど,1回あたりのライン数と動作速度を任意に変更することができるという。
また,大型のMEMSミラーは自動車に搭載した場合,低周波振動の影響が心配されるが,ミラー構造にシリコン製のスプリングを加えるなどの対策をとっており,また,振動テストを行なうことで実用性を確保したとしている。
同社は年産20万台の能力を持つ生産ラインを立ち上げており,8月には竣工の予定だという。具体的な量産計画は無いものの,アセンブリーが自動化されることで価格は300ドル以下にしたいとしている。現在,国内代理店であるネクスビジョンテクノロジーズを通じた営業活動を行なっており,小糸製作所が同社のLiDARを用いたヘッドランプユニットの開発を検討している。
このLiDARは車載用以外にも,周囲の交通状況をLiDARで検出して交通信号と同期させる協調型運転支援向けアプリケーション向けに販売を始めており,会津若松市で実証実験を行なう予定だとしている。