東工大,光スイッチを持つナノカプセルを作製

東京工業大学は,水中で光刺激に応答する2nmサイズのカプセルの作製に成功した(ニュースリリース)。

ナノメートルサイズのカプセルは,その内部空間に分子を取り込むことで,物性や反応性を変化させることができるため,革新的な材料機能や触媒反応の開発を目指した研究が盛んに行なわれている。

しかし,水中で使用でき,さまざまな分子を取り込むだけでなく,簡単に取り出すこともできるカプセルは未開発だった。水溶性と光応答性を合わせ持つナノカプセルが合成できれば,生化学や臨床医学分野での幅広い応用が期待できる。

2013年に研究グループは,2つのアントラセン(3つのベンゼン環を連結した形のパネル状有機分子)を120度の角度で連結した両親媒性分子が水中で自己集合して,水溶性のナノカプセルが形成することを報告した。このナノカプセルは高い分子内包能を有するが,光などの外部刺激に対する応答性を持たない。

今回の研究では,2つのアントラセン環と2つの親水基を持つV型両親媒性分子1oは,1,2-ジメトキシベンゼンを出発原料にして,6段階の反応で合成した。1oを水中,室温で5分間撹拌することで,アントラセン部位の分子間でのπ-スタッキング相互作用および疎水効果(分子間で働く比較的弱い相互作用)により自己組織化し,選択的にナノカプセル2が形成した。

これをNMR(核磁気共鳴装置),DLS(動的光散乱法)およびAFM(原子間力顕微鏡)で分析したところ,ナノカプセル2は,約5分子の1oからなる約2nmの球状集合体であることが判明した。

ナノカプセル2の水溶液に380nmの紫外光を10分間照射したところ,カプセルが完全に分散状態になることがNMR,DLSおよびUV-vis(紫外可視分光光度計)分析で明らかになった。この現象はまず,ナノカプセルを構成する1oの2つのアントラセン環が光照射により結合し,すべてが閉環体1cに変換された。その結果、分子間でのπ-スタッキング相互作用が立体的に阻害され、集合状態を維持できずに分散した。

また,1cの水溶液を160ºCで30分間加熱すると結合が切断され,1oの再生によりナノカプセルが再生した。同様に,1cに短波長の光照射(287nm)することで,約80%の効率でカプセル構造が再生した。

研究グループは,今回の成果は,水中で使用可能な「光スイッチ」を持つナノカプセルの最初の例であり,大小さまざまな化合物の内包と放出が簡便にできることから,生化学や臨床医学の分野での応用が期待できるとしている。

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