京大ら,単原子ゲルマニウム導入反応の開発に成功

京都大学と米バーモント大学は,単原子ゲルマニウムを他の分子に導入可能な有機反応の開発に成功した(ニュースリリース)。

有機合成において,合成戦略は標的分子をより単純な部分構造に分割することに依存し,その実現性は必要な構成要素の入手可能性に左右される。

「単原子」は全ての分子において最も単純かつ理想的な構成要素だが,ほとんどの元素において,合成のために個々の原子を入手することは現実的ではない。そこで単原子状態の元素を供給可能な分子の開発に注目が集まっているが,その報告例は限られていた。

今回研究グループは,ゲルマベンゼニルアニオンとケイ素およびゲルマニウム間に二重結合を有する化合物である1,2-ジブロモジメタレンの反応を検討した。

その結果,ゲルマベンゼニルアニオンの持つゲルマベンゼン環のゲルマニウム原子がジブロモジメタレン由来のケイ素/ゲルマニウム原子に置き換わり,対応する「重いベンゼン」(ベンゼン環上の炭素原子を炭素と同じ14族の高周期元素と置き換えたベンゼン環)を与えることがわかった。

このような芳香環を構成する原子が交換する反応は,酸素を含んだ芳香環であるピリリウム塩における酸素原子交換反応としてよく知られるが,炭素も含め14族元素の交換反応は例がなく,新奇な骨格変換反応として意義が大きい。

この反応では,ゲルマベンゼニルアニオン由来のゲルマニウム原子が失われている。その行き先を調べたところ,反応途中に生成する高反応性ゲルマニウム化合物と反応し,置換基を持たないゲルマニウムとして組み込まれていた。

また,条件を検討し,第三の化合物を共存させて反応を行なうと,実際にその化合物に対してゲルマニウム原子を導入できた。これらの結果は,この反応が新たな単原子ゲルマニウム導入反応となることを示すだけでなく,従来有機分子に対してのみ実現できていた同反応を重い元素の化合物にも適用できることを示したものと言える。

反応の詳細を検証したところ,芳香環での核交換を経て生成する化合物が重要であり,化合物からエネルギー的に安定な「重いベンゼン」を放出する過程を駆動力としてゲルマニウム原子が移動していた。

単原子移動反応は,合成化学者にとって重要なツールになり得る。特に重い元素の原子移動反応は,従来法では難しかったボトムアップ的なアプローチで,望む構造を精密に制御できることから,合成化学,材料化学の観点からも有用性が高い。

研究グループは,このプロジェクトで示した単原子ゲルマニウム導入の一般的な方法論は,分子や材料への幅広い関心の高まりに応えるもので,将来的には様々な元素への応用が期待されるとしている。

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